専門分野は測地地震学ですが、そのなかでも主なターゲットは海溝型地震です。地震はその発生源によって大きく2つに分けられます。1つは、陸上の活断層が原因となる活断層型地震、もう1つはプレートの沈み込みが原因で起こる海溝型地震で、こちらのほうが規模が大きくなる傾向があります。
海溝型地震のメカニズムを知るためには、海底の動きを捉えることが非常に重要です。
複数のプレートが重なり合う場所に位置する日本は、世界有数の地震国です。特に、日本海溝や南海トラフで発生しうる巨大地震は、ひとたび起これば甚大な被害をもたらします。
海溝型地震の発生メカニズムを解明する鍵となるのが、海底の動きです。近年、GNSS-Aと呼ばれる新しい海底観測技術により、海底の精密な観測が可能となりました。GNSS-Aを用いた海底観測の高頻度化・リアルタイム化を目指し、無人観測機の開発研究に取り組んでおられる東京大学の横田裕輔先生にお話を伺いました。
専門分野は測地地震学ですが、そのなかでも主なターゲットは海溝型地震です。地震はその発生源によって大きく2つに分けられます。1つは、陸上の活断層が原因となる活断層型地震、もう1つはプレートの沈み込みが原因で起こる海溝型地震で、こちらのほうが規模が大きくなる傾向があります。
海溝型地震のメカニズムを知るためには、海底の動きを捉えることが非常に重要です。
日本近海では、大陸プレートの下に海洋プレートが沈み込んでいます。大陸プレートの一部は海洋プレートに引っ張られて一緒に移動しているため、少しずつ歪みが蓄積していきます。そしてあるとき、この歪みが一気に解放されます。これが海溝型地震です。
ただし、プレート同士の接触面すべてで地震が起きるわけではありません。スムーズに滑りつづけている部分では、地震は起こらないのです。したがって、地震が発生する場所を知るためには、海洋プレートに固着して引きずられている範囲を知る必要があります。
GPSをはじめとするGNSS(Global Navigation Satellite System、全球測位衛星システム)により、陸上の位置情報はかなり正確に得られるようになりました。しかし、衛星の電波は海底まで届かないため、GNSSで海底を測定することはできません。そこで私は海上保安庁と共同で、音波を利用した新しい観測システム「GNSS-音響測距結合方式(GNSS-A)」を開発し、実用化してきました。
GNSS-Aは、GNSSで決定した「測量船の位置」と、音波で測量した「測量船と海底局(測量船から送られる音波を受信し、送り返す装置)との距離」を組み合わせることで、海底の精密な位置情報を得ます。現在、日本には60から70点ほどの観測基準点があり、それぞれの基準点には複数の海底局が設置されています。
海底の音響測距において考慮しなければならないのが、「場」の影響です。一般に、観測が行われる環境を「場」と呼び、場を満たす大気や海水に擾乱(不規則な変動や乱れ)が生じると、観測結果が影響を受けてしまいます。
衛星の高度から見れば、擾乱する大気の層はわずかな厚みしかありません。一方、海洋では測量船と海底局の間に、常に激しい擾乱があります。しかも、船舶が少し動いただけで場がガラッと変わってしまうため、衛星による観測方法とは異なり、船舶は移動しながらデータを取り続けます。得られたデータはすべて、各々の場に応じた補正が必須になります。これらの補正や解析方法は、今も研究が続けられている分野です。