HOME > 研究者 > 山本真行先生 >複合型インフラサウンドセンサーの面的展開による津波防災情報伝達ネットワークの構築(第2回)

実際に津波が発生したとき、インフラサウンドセンサーが検知した情報は、どのように伝えられるのですか?

緊急地震速報の受信をトリガーに、インフラサウンドセンサーは非常時モードに移行するよう設定されています。

非常時モードでは、センサーは「設置地域に津波被害をもたらすと想定されている地震の震源地」から発生するインフラサウンドにのみフォーカスします。高知県の場合は、南海トラフ地震の震源地から発生する津波のインフラサウンドのみを検出するよう制御され、その波形の周期と振幅の大きさから津波の規模を算出し、その数値を自治体の防災担当部署に送信します。

津波は海底が浅くなるにつれて速度が遅くなる性質があります。単純な試算ですが、室戸岬のセンサーが津波のインフラサウンドを検知した後、湾奥に位置する高知市に津波が到達するまで、30分から1時間程度の避難時間を稼げることがわかりました。

ここで重要となるのが「実際の津波の規模と、政府が想定した津波の規模との差異」です。実際の津波の規模が政府の想定よりも大きかった場合、防災担当者は警戒レベルを上げる、避難場所を変更するなど、より確かな情報発信や避難誘導を行うことができます。

地域住民に直接、津波警報を出すのではなく、既存のシステムを補完する形なのですね。

独自の津波警報システムを構築することは可能ですが「気象業務法」という法律があるため、勝手に警報を発信することはできません。しかし、災害時に正確な情報を取得したいという住民の切実なニーズに応えるため、黒潮町をモデル地区に、住民に対する情報伝達手段について検討を進めていく予定です。

インフラサウンドセンサーによる津波検知・情報伝達と3段の警報体制

北海道胆振東部地震(2018年9月6日)では、震源地の周辺地域で通信回線が断絶し、震度計の観測データがすぐに送信されないという問題が発生しましたが……。

通信インフラが被災しても観測データの送信が途切れないよう、現在「数理設計研究所」と共同で、センサー間で独自に無線通信ができるシステムの研究・開発を行っています。

このシステムには、省電力で100 km先まで届く長距離無線通信(LPWA:Low Power Wide Area)を導入します。1秒間に1文字程度しか送れない低ビット通信のため、センサーが検知した全データを送ることはできません。そこで、センサーが検知した波形をその場で解析し、津波防災に必要な情報のみを抜き出して優先度順にデータを送信するアルゴリズム、およびソフトウェアの研究を進めています。

成層圏上部の音の伝わり方を観測するため、ロケット搭載用の小型軽量センサーも開発した
Copyright(C) SECOM Science and Technology Foundation