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弾性波動論とAIの融合による完全非接触レーザー超音波非破壊検査システムの開発(第1回)

群馬大学

Takahiro Saitoh

熟練の検査員でなくとも、欠陥の有無がわかるようになったのですね。最後の「検査員とAIによる定量的非破壊評価方法の開発」とは、どのようなものでしょうか。

今後の人口減少を鑑みると、ロボットによる検査の自動化だけではなく、検査結果から欠陥の有無の判断まで、ある程度は機械が担うことが求められます。そこで、AIの活用を考えました。

ただし、AIの判断には、その根拠がわからない「ブラックボックス問題」があります。後ほど詳しく説明しますが、この問題を解決するための技術も開発したうえで、AIの構築を進めていきました。

AIの開発には大量の学習データが必要となりますが、UTのデータも豊富にあったのですか。

いいえ。医療分野ではさまざまな疾患の画像がデータベース化されていますが、非破壊検査にはデータベースがありません。構造物や材料によっても波形が異なりますし、土木分野、航空宇宙分野、原子力発電所など、データの規格も業界によってバラバラです。何より「欠陥あり」のデータが存在しても、それを提供してもらうことは困難です。

そのため、データをいちから作る必要がありました。ただし、実測データを大量に作るのではなく、シミュレーションを用いて2種類のデータを用意しました。

欠陥の位置や大きさが異なる100パターンの実測データを作るためには、100個の試験体を用意し、実験を100回実施しなくてはいけません。しかしシミュレーションであれば、欠陥の位置や大きさ等のパラメータを変更するだけで、多様なパターンのデータを得ることができます。

なるほど。先生は博士課程で、弾性波動シミュレーターの開発研究に従事されていましたね。

ただし、シミュレーション結果はノイズのない理想的な形ですが、実験から得たデータには特有のノイズが入っています。そのため、最初は2種類のデータを用いた学習がうまくいきませんでした。そこで、生成AI技術を用いてシミュレーションデータにあえてノイズを付加し、実測データに近づけたところ、良好な結果が出るようになりました。

さらに、このAIの精度を評価するため、実測データのみで学習したAI、シミュレーションデータ+実測データで学習したAI、提案手法(ノイズをかけたシミュレーションデータ+実測データ)で学習したAIで、判定結果を比較しました。すると、提案手法で学習したAIが、早い段階で正確に欠陥を判定できることがわかりました。


上:生成AIでシミュレーション結果を実画像に近づけた。下:欠陥ありの場合、提案手法が最も欠陥周辺の画像の特徴を捉えている

現在はこれらの研究成果をもとに、選考委員からご要望をいただいた、コンクリートを対象としたシステム開発を進めているところです。

非破壊検査へのAI応用研究は始まったばかり。土木学会全国大会研究討論会、非破壊検査総合シンポジウムや日独米国際ワークショップ、日本音響学会、京都大学数理解析研究所のワークショップ等、さまざまな招待講演を通して、本研究内容の最新の取り組み等を紹介してきた

非破壊検査の課題や超音波検査の仕組み、先生が開発されたシステムについてわかりやすく教えていただき、ありがとうございました。次回は、コンクリートを対象としたレーザー超音波非破壊検査システムの開発研究について、詳しくお伺いします。

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