HOME > 研究者 > 斎藤隆泰先生 > 弾性波動論とAIの融合による完全非接触レーザー超音波非破壊検査システムの開発(第1回)

航空機などの機械構造物や、高度経済成長期に建設された数多くの土木構造物、原子力機器等の重要構造物は、常に安全安心な状態を維持するために日常点検および定期的な詳細検査が実施されています。しかし、構造物の老朽化と近年の人口減少により、非破壊検査は多くの課題を抱え、次世代のインフラ点検・診断技術の開発が強く求められるようになってきました。

新たな時代の非破壊検査は、どうあるべきか。AI技術を応用したレーザー超音波非破壊検査システムで課題解決を目指す、群馬大学大学院理工学府の斎藤隆泰先生にお話を伺いました。

まずは、超音波を用いた非破壊検査システムの仕組みについて教えてください。

超音波検査(UT)では、探触子と呼ばれる機器を検査対象の構造物に接触させて、超音波を送信します。すると、超音波は構造物の中に入り、底面まで到達して、表面に跳ね返ってきます。構造物に亀裂や穴などの欠陥があった場合、超音波はその部分を通過できずに反射されて、欠陥エコーと呼ばれる散乱波になります。受信した波に散乱波が含まれているかどうかで、欠陥の有無を確認できるのです。

UTの原理。受信した波形を分析し、欠陥の有無を判断する

それは、病院で受ける超音波検査(エコー検査)と同じ原理でしょうか。

はい。病院では患者をベッドに寝かせて、皮膚にゼリーのようなもの(接触媒質)を塗ってから、探触子をグリグリと強く押し付けます。実は、探触子を体に当てるだけでは、超音波は体の表面や空気の層に反射してうまく入りません。接触媒質を塗るのは体の表面で反射させないため、探触子を強く押し付けるのは空気の層ができないようにするためなのです。

超音波がうまく体内に入れば、異常があった場合に散乱波のピークを観測できます。うまく入らなければピークが小さくなり、判別が難しくなってしまいます。

非破壊検査のUTでも、対象に接触媒質を塗ったり、探触子を強く押し付けたりする必要があるのですか。

そうです。そしてそれが、検査の効率化の妨げになっています。トンネルの天井や橋梁の裏側は、接触媒質を塗ったり、探触子で直接触れたりすることが困難です。また、原子力発電所の配管など、検査が必要でありながら人間が入れない場所も少なくありません。

加えて、UTの波形は材料や形によって多様なパターンがあるため、単純に「大きなピークがある」イコール「欠陥がある」とはなりません。熟練の検査員でなければ、重要な構造物や材料の検査を行い、欠陥の位置や大きさを正しく判断することができないのです。

人口減少による人材不足の深刻化が、あらゆる業界で課題になっています。非破壊検査でも、検査員の不足が懸念されているのでしょうか。

日本は1970〜1980年の高度経済成長期に、ダムや橋などの大型の土木構造物を数多く建設しました。約50年が経過しましたが、耐用年数が過ぎたという理由でそれらを解体・撤去して新しく建設することは、現実的ではありません。安全安心に使い続けるためには、定期的な検査と、検査結果に基づく適切な補修や補強が不可欠です。

ところが、検査できる人員が足りません。これは深刻な社会問題です。

そこで、①検査の効率化、②検査員が判断しやすい検査方法、③熟練技術者不足、この3つの課題解決に貢献できる新しい非破壊検査システムが必要だと考え、研究を開始しました。具体的には、レーザーを用いた完全非接触のUT、超音波の波の伝わり方を可視化した超音波イメージング、検査員とAIによる定量的非破壊評価方法の開発です。

構造物の安全性を耐用年数のみで決めるのではなく、検査結果に基づいて、継続使用が可能か、建て替えるべきかを判断するべき
Copyright(C) SECOM Science and Technology Foundation