「シャツ型心電計による患者主体の心疾患検出基盤~AI連合学習による医療データ活用~」

連合学習によって12誘導心電図AIの精度と汎化性能を向上

これら2つの方法を用いて、より高精度な12心電図AIと、シャツ型心電計AIの実現に取り組みました。

まず、3つの心疾患を高精度に検出する12誘導心電図を実現するために、複数施設のデータを連合学習させました。

国内外の大学病院2件の12誘導心電図データを用いて、エコーで確認された心房中隔欠損症を検出するようAIに連合学習させました。その結果、学習に用いた施設のテストデータはもちろんのこと、学習に用いていない施設のデータでも高精度に疾患を検出できることがわかりました。

連合学習させた12誘導心電図AIが、心房中隔欠損症を検出する精度。a、bは学習に用いた施設の場合。cは学習に用いていない施設の場合

残り2つの疾患についても、連合学習を使用すると、単一施設のデータのみ学習させた場合よりも、検出精度と汎化性能が向上することが明らかとなりました。

3誘導から心疾患を検出するAIを下地に、転移学習を用いたシャツ型心電計AIを作成

この成果を踏まえたうえで、シャツ型心電計AIの下地として、豊富に入手可能な12誘導心電図データから抽出した3誘導のみで、心疾患を検出するAIの作成に取り組みました。いわばシャツ型心電計AIの下準備として、「浅い層」 の重みを固定するプロセスです。

先述したように、3誘導あれば心臓の活動を3次元的に捉えることが可能になるため、12誘導心電図データを学習させた場合と同程度の高精度で心疾患を検出できます。ただし、これは単一施設のデータを用いた場合での検証です。連合学習を使って、多施設のデータを学習させた場合でも同じなのか、また「3誘導」とはどの誘導で、どのような組み合わせで学習させればいいのかを検証しました。

その結果、疾患によって組み合わせは異なるものの、3誘導を揃えると、どの疾患でも12誘導心電図データを用いた場合とほぼ同程度の精度と汎化性能を実現できることが明らかになりました。

続いて、12誘導心電図データからシャツ型心電計の誘導に類似した3誘導心電図データを抽出してAIに学習させ、心疾患検出精度を調べました。その結果、先述の3つの疾患を12誘導心電図に近い高精度で検出できることが示されました。

ここまでの成果を土台に、シャツ型心電計データから心疾患を検出するAIの完成を目指しています。現時点で国内外の5施設 から1,000万件超の12誘導心電図データ、300件のシャツ型心電計データを取得し、転移学習の手法を用いて、これらをAI学習させています。膨大かつ多様なテーマを集めるために、今後はより多くの施設と連携し、心電図AIの精度と汎用性向上を図る所存です。

挑戦的研究助成を通して、研究者同士のネットワークが拡大

この研究助成制度のことは、慶應義塾大学の循環器内科で勤務していた時の先輩であった白石泰之先生から教えていただきました。公募テーマ(「個人情報の保護と積極的利用を両立する生命医科学あるいは医療・健康管理データの研究」)が自分の研究のコンセプトに合致していたので、申請を決意しました。

面接では、諸分野の先生方から、建設的な提案を多くいただきました。特に参考になったのは、マルチモーダルAI(画像、音声、テキストなど異なる形式のデータを同時に処理し、総合的なデータ分析が可能なAI)についてのご提案です。助言を受けて、心音データの収集を初年度から続けています。

何よりありがたかったのは、研究者同士のネットワークが広がったことです。メンタリングを担当してくださった川上英良先生をはじめ桜田一洋先生など、式典やシンポジウムを通して、医学とAI技術の融合に取り組む先生方と知り合うことができました。貴重な人脈を築く機会をいただいたことに、深く感謝しています。

研究は計画通りに進まないことが多々あります。そのような時でも、この挑戦的研究助成を通して出会った人々や、いただいたアドバイスが、強力な支えとなって前に進むことができました。テーマが合致している方は、迷わず応募することを心からおすすめします。

他施設でのデータ解析のため、急な旅費が発生することもあったが、自由度の高い助成制度のおかげで研究をスムーズに進めることができた。深く感謝している