「ノンコーディングRNAによる抗ウイルス生体防御の多階層制御ネットワークの解明」

同じウイルスでも感染した細胞によって異なるmiRNAと出会う

次に、同じウイルスが感染した細胞でも、ヒト細胞とマウス細胞ではゲノムにコードされたmiRNAの数や配列に違いがあることに注目しました。そこでBoDVの塩基配列のなかで、ヒトとマウスのマイクロRNAがそれぞれ結合しやすい、RNAサイレンシングが起こりやすい領域がどこに、どれくらいあるのかを解析しました。

方法としては、RNAはAUGCなどの配列であることから文字情報として表現できるため、BoDVのRNA、ヒトのマイクロRNA、マウスのマイクロRNAを情報として記述し、塩基配列解析プログラムによるシミュレーションを実施したのです。

その結果が、下図です。マウスよりもヒトのほうが、明らかにRNAサイレンシングが起こりやすい領域が多数存在し、逆に、ヒトよりもマウスのほうが起こりやすい領域も見られました。BoDVの遺伝子のうち、たとえば遺伝子Nがコードされている領域は、ヒトに感染しても機能しにくいが、マウスに感染すると機能する可能性が高い、ということがわかったのです。

青い領域は、マウスよりもヒトでRNAサイレンシングが起こりやすい部分。オレンジはヒトよりもマウスのほうが起こりやすい領域

ただし、このシミュレーションでは細胞ごとに異なるマイクロRNAの発現パターンや、それぞれの活性を大雑把にしか加味していません。特定の細胞では、この結果通りにRNAサイレンシングが起こらない可能性もあります。今後は、さらにパラメーターを追加し、解析の精度を高めることで、マイクロRNAによるRNAを標的とした免疫の仕組みが、少しずつ明らかになっていくと考えています。

面接で大きな刺激が、メンタリングによって成長の機会が与えられる

私はもともと研究者になりたいという強い覚悟や自信があったわけではないのですが、研究を始めたら楽しくなり、やめられなくなってしまいました。修士の頃はsiRNAの研究をしていましたが、その機能を制御するタンパク質がウイルス応答に関わるものだったため、ウイルスに関しても調べるようになり、次第にマイクロRNAによる免疫に研究の軸が移っていったという感じです。

セコム科学技術振興財団の助成制度のことは、実はかなり前から知っていました。まだ自分には早い、無理じゃないか、と応募をためらっていましたが、埼玉大学への異動と同時に決意し、クリームベンチも遠心機もない、ガランとした研究室で申請書を書きました。書類が通って面接に行くと、大学院生のころから知っていた黒田玲子先生 や、そのほか著名な先生方がずらりと並んでいて、すごい場所に来てしまったと思いました。サイエンスの本質を突いた鋭いご意見や、長期的な視野での深い問いをたくさんいただき、面接が刺激的でとても楽しかったため、採択通知が届いたときは本当に嬉しかったです。

助成金で購入した大型冷凍庫。DNAやRNA、抗体など、実験やヒトの細胞を培養するために必要なものを大量に保管でき、重宝している

異動したタイミングで、初めは少し迷走している部分もあったのですが、メンタリングのたびに桜田一洋先生 、古関明彦先生、後藤由季子先生から的確なご指摘をしていただいたおかげで、これまで想定していなかった新しい発想での立体的な視点が身につき、いま自分が取り組むべきことがより明確になりました。先生方とはお話できるだけでもとても嬉しいのですが、お褒めの言葉もいただけるようになり、研究者として成長させてもらっていると実感しています。

私のように「自分には無理かもしれない」「今じゃないかも」と思わずに、まずはやりたいことを自由に書いて、応募してみることをお勧めします。

研究室にはノンコーディングRNAに興味を持つ優秀な学生が集まり、学部生でも専門性の高い研究を任されている。細胞の培養やタンパク質の実験なども近くで行うため、コミュニケーションも活発