「骨代謝動態と骨量動態のマルチスケール統合シミュレータに基づく骨量増加ストラテジーの開発」

骨量増加・骨量低下抑制の要因をさまざまな方法から解析

一般的に「運動をすれば骨が強くなる」と言われているように、運動や筋力トレーニングが骨量増加に有効であると結論づけた臨床研究は多数存在します。しかし、どの年齢において、どの運動種目が最も高い効果を期待できるのかは、明らかになっていません。

そこで、運動に伴う重力負荷が骨量にどのような影響を与えるのかを確認するため、特殊なマウス飼育装置を用いて、2Gの荷重がかかる環境でマウスを2週間飼育。その後、4週ごとに血清と骨組織サンプルを採取し、骨代謝マーカーの変動を解析して、通常飼育(1G)のマウスの解析結果と比較しました。

すると、荷重飼育下のマウスのほうが、通常飼育のマウスよりも骨量減少が抑制されていることがわかりました。

今後は、マウスの運動を制限する環境を作ることで、運動量低下が骨量にもたらす影響や、骨粗鬆症を発症したマウスの骨量が運動によってどのように変化するのか等、骨量減少の要因や、減少した骨量を回復させる運動の種類および骨量増加との相関関係について解析を進める予定です。

この実験と並行して、20〜30代の男女20名程度を対象に、12ヵ月間の日常活動量と骨量変動データを、ウェアラブルデバイスと簡易骨密度測定装置によって測定しました。その時系列データを解析することで、人間の運動量と骨量変化関係を予測する統計モデルを開発し、先ほどご説明した骨代謝マーカーの変動から骨量を予測するシミュレーションと統合させ、科学的エビデンスに基づいた効果的な骨量増量運動プログラムの提案へと発展させていくつもりです。

運動モニタリングシステムにより実現する未来運動モニタリングシステムにより実現する未来

研究開発の先にある、企業と協働できる体制づくり

将来的には、ウェアラブルデバイスを通じて日々の運動データを継続的に測定・記録し、さらに骨代謝マーカーやその他のバイオマーカー、骨状態の統計量などのマルチスケールデータから、骨の健康状態や未来の骨折リスクを把握できるアプリを開発する予定です。加えて、骨粗鬆症の予防や治療に効果がある運動プログラムを確立して普及させることで、高齢になっても安全・安心な生活が送れる社会づくりに貢献したいと思っています。

それらの研究は、また別の専門家とチームを組んで進めることになります。技術開発を大学が担い、普及に向けた戦略づくりと実行を企業に任せる。そうした体制づくりも、この研究の大きな柱といえます。

子どもの頃から「新しいものを発見する」ことが好きで、中学生になった時には漠然と「研究者になりたい」と思っていた子どもの頃から「新しいものを発見する」ことが好きで、中学生になった時には漠然と「研究者になりたい」と思っていた

最大のメリットは視野が広がり、研究者として成長できること

この挑戦的研究助成制度のことを教えてくれたのは、現在、特定領域研究助成で助成を受けている川上英良先生です。私とはアプローチの方法が異なりますが、同じ数理科学分野の研究者として親しくさせてもらっています。

私にとって、この挑戦的研究助成の最大のメリットはメンタリングです。桜田一洋先生からいただいた忌憚のないご意見やアドバイスは、どれも私自身では思いつかない新鮮なもので、研究者としての視野が大きく広がりました。2年目の継続審査の面談でも、古関明彦先生から貴重なアドバイスをいただくことができました。今まで接点がなかった多くの先生方と出会い、新しいネットワークを得られたことに、心から感謝しています。

研究費の支援は他の財団でも行っていますが、研究者の成長をサポートしてくれるのは、セコム科学技術振興財団だけです。私も多くの研究者に、この挑戦的研究助成を勧めていくつもりです。
 

セコムといえば防犯やセキュリティのイメージが強いが、本当に広い意味で「安全・安心を守る」研究を支えているのだと知ったセコムといえば防犯やセキュリティのイメージが強いが、本当に広い意味で「安全・安心を守る」研究を支えているのだと知った