「生命原理の解明に向けた階層構造を持つ
モデル実験系の構築」

研究を大きく飛躍させられる助成制度

私の研究は非常に理解されにくく、他の研究者の方には「君は一体何がやりたいんだ」と、よく批判されました。そのため、他の助成制度にどれだけ申請してもなかなか通りませんでした。

セコム科学技術振興財団の挑戦的研究助成制度に応募した際も、審査を通るのは難しいだろうという気持ちはありました。

ところが、審査員の先生方の守備範囲が広く「サイエンスを醸成させていこう」という姿勢のもと、他の研究財団とはまったく違った新しい視点で評価していただけました。特に、桜田一洋先生からの質問は的確かつ細やかで、それまで私の研究テーマで高度な議論ができる機会がほとんどなかったため、嬉しい誤算でした。

セコム財団は、助成金を供出して終わりではなく、助成期間中に個々の研究の進展状況を確認し、アドバイスをもらえるチャンスが何回もあります。毎年行われるメンタリングや継続審査の場は「一流の先生方からアドバイスいただける貴重な機会」と、私は考えています。これまでの面接審査やメンタリングでも、ご指摘いただいた点を課題として持ち帰ることで、新たな発想が生まれたりしました。たとえ採択されなくても、面接に漕ぎ着けられるだけで、若手の研究者にとって貴重な機会になり得るのではないでしょうか。

研究に没頭できる環境整備が実現

助成金で「マイクロインジョクション」と「XYZステージ」を購入できたことで、研究が大きく進展した

採択されるまでは、液滴をピペットで“手作り”していました。そのような手作業では、直径1mm以下の液滴は精度よく作成することはできません。それよりも微小な液滴が必要なときは、適当にピペットを振ってシェアストレスをかけて小さい液滴を作るという、再現性がない方法で効率の悪い作業を行っていました。

しかし、助成金を活用して「マイクロインジョクション」や「XYZステージ」などの高価な機器を購入できたことで、再現性よく、小さな液滴を作成できるようになり、実験が飛躍的に進みました。参加費、旅費ともに高額な海外の国際会議なども、気兼ねなく参加できるようになりました。

さらに、この挑戦的研究助成に採択していただいたお陰で、少なくとも3年間は研究に没頭できる環境が整えられました。助成金申請の書類作成は、研究の方向性や手法を検討する機会となるのですが、確立してからは研究成果を挙げることに時間を費やすべきです。複数年度に渡って安定的に助成していただくことで、今は申請書類の作成に時間を費やすこともなく、研究を進めることができています。

理想は常に新しいことにチャレンジしていく研究者

学部時代を過ごした東京理科大学では、学内研究室の定員に限りがあったこともあり、学外の研究室に所属して卒業研究を行うという制度がありました。私はこの制度を利用して、理化学研究所で卒業研究を行う機会を得ることができました。その後、進学した筑波大学でも、連携大学院制度を利用し、産総研で博士課程を過ごしました。つまり、一度も大学の研究室を経験せずに学位を取得しました。

研究者としては異色の経歴だといえますが、その時に垣間見た、研究所の研究員たちたちが楽しそうに研究に励む姿勢に感化され「研究者になるしかない」と決心したのです。

私は、器用なほうではありませんから、大きなマネージングをするよりも、現場の“歩兵”として本能の赴くまま、興味の赴くままに研究を続けていくタイプの研究者だと思います。そういう思いを叶えてくれる、この助成金制度には、心から感謝せずにはいられません。

私に続く後進の研究者には、最初から諦めず、この貴重な機会を見逃さず、どんどん申請していただけたらと願っています。

「理想はリチャード・ファインマンのような研究者」と語る末松先生
インタビュー内容と先生の経歴等は2019年7月現在のものです。