「ドローンの利活用によるリスクと安全で安心な社会の構築のための法整備に関する研究」

異なる分野の専門家から直接意見を聞くことで、新たな視座を獲得

私たちはドローンの安全性について「99.99%落下しないよう設計される飛行機」と同じように考えています。しかし、実際にドローン飛行の研究をされている工学部の先生にお話を伺うと、現在の技術では「ドローンは落下するもの」であり、飛行機と同様の安全性は確保できないことがわかりました。つまり、そう認識した上で利活用の仕組みを考える必要があります。

また、ドイツをはじめとする欧州では、ドローン飛行によるカメラ画像の取得など、プライバシー保護に関した規制は強化される傾向にあります。一方、米国では表現の自由やイノベーションを重視しています。国際社会においてもまだ統一した見解はないことから、これらを比較検討し、国際的な視点と知見を得た上で、日本社会に即したプライバシー保護に関わる法規制を検討することが肝要であるこという認識を得ました。

そうした成果をもとに、昨年の秋には近畿経産局の事業検討会で「ドローン規制の現状と課題」というタイトルで招待講演を行い、関係事業者のヒアリングを実施しました。今後も技術的・法的な観点を交えて議論し、検討を重ね、論文の発表や、行政機関を交えた意見交換会の開催を積極的に行っていく予定です。

工学研究者の「規制の中で創意工夫をすることによって、新しい技術が生まれることがある」というお話から、本研究が法と技術を結ぶ架け橋になると気付いた

挑戦的研究助成に採択していただき、活動の幅が大きく広がった

ドローンの利活用における具体的なリスクを踏まえた法整備の研究となると、研究内容が複数の学術分野におよぶため、社会科学分野の研究助成制度では、なかなか採択されません。そのような中、セコム科学技術振興財団の挑戦的研究助成制度を見つけ「ここなら、研究テーマを変えずに採択していただけるかもしれない」と一縷の望みをかけて応募しました。

本研究では、他の研究者や行政の人々と直接会って話を伺うことが、非常に重要です。活動費に十分な費用をかけられるようになったおかげで、国内外のさまざまな学会や会議に参加したり、研究会や意見交換会を開催して関係機関の人々や専門領域の研究者を招聘することができるようになりました。人脈が広がり、その人脈が次の交流や活動に繋がっていくことで研究をより深く進めることができ、感謝しています。

理系・文系の研究者が対話して進んでいく、未来志向の研究に期待

挑戦的研究助成の魅力は、面談やメンタリングの場で、雲の上の存在とも言うべき先生方にアドバイスをいただけることです。特に黒田玲子先生からの直々のご指導が、研究者として大いに刺激になっています。さらに、一橋大学の先輩である佐々木信行理事長が、挑戦的研究助成贈呈式の際、今回の採択について喜んで下さっていたことが、一後輩として大変嬉しく、励みになりました。

また、セコム財団の研究助成を受けていることをお伝えすると、理系の先生からはそれだけで一定の評価をいただけるため、お話をしやすいというメリットもありました。

文系の研究では「理論構築は自分のみで行うもの。他の研究者のアドバイスは必要ない」と考える先生もいらっしゃるでしょう。しかし、社会の発展のためには理系の最先端の科学技術と、その技術を活かすための制度設計の、両方が必要です。そうした機会を設けるのは文系の研究者の方が得意であり、そのような研究を助成の対象にしてくださっているのが、セコム財団です。柔軟な思考を持った文系の先生方がたくさん応募し、技術と法を繋ぐ新しい研究が増えることを願っています。

現在の社会制度の問題点を抽出し、発信して、法律の側面から徐々に社会に影響を与えていく研究をこれからも続けていきたい