HOME > 研究者 > 首藤一幸先生 > 社会基盤たり得る分散台帳の研究(第2回)

解決すべき課題が多くとも、改善のアプローチはさまざまな方法がありそうですね。先生はなぜ、分散システムのご研究を始めたのですか。

私は学生時代からインターネットの可能性に魅せられていたため、大学の研究室では世界中のコンピュータで分散処理を実行できる言語処理系を作りたいと思い、プロトタイプを構築しました。その後、産業技術総合研究所の所属となり、分散コンピューティングの研究に携わることになりました。分散コンピューティングの代表例SETI@homeは、宇宙から地球に届く膨大な電波の中に、宇宙人が作った人為的なデータが含まれていないかを検証するため、多くの人々からコンピュータの計算能力を提供してもらう、というものでした。

ですがそれでは、私たちは常に、サーバに対して「計算してあげる」側にしか立てません。それが残念だったので、誰もが「計算してもらう側」と「計算してあげる側」を自由に行き来できるようなシステムの研究を進めました。

分散システムに限らず、私は、すべての人々が対等な関係になり、一人ひとりの自律的な行動によって全体が上手くいくような、ボトムアップ型の社会が理想的だと考えています。

分散システムの研究者は、そうした社会に対する思想・信念のようなものをお持ちの方が多いのでしょうか。

そうかもしれません。だからこそ私も、ブロックチェーンが社会を支える基盤の一つになって、活用されてほしいと感じるのでしょう。これまでも10年に1度くらいの頻度で、非集中であるために世の中に新しい価値を生み出すような技術が出現しています。私もそういった基盤技術の開発を目指しているので、サトシ・ナカモトの論文を読んだときは「やられた!」と、心底悔しい気持ちになりました。

一般研究助成に申請した経緯について、教えて下さい。

以前、セコムのIS研究所の方とブロックチェーンに関する議論をさせていただいたことがあり、その時に研究費の助成制度があることを教えてもらいました。倍率の高さを知らないまま選考面接まで進んでしまったので、その後に数字を知って驚き、採択の通知を受け取ってさらに驚きました。本当に感謝しています。

セコム科学技術振興財団の研究助成制度は、期間が長く、金額も大きいので、安心して研究に没頭することができます。他分野の研究者と交流する機会に恵まれることも、大きな魅力ですね。セキュリティや医療、防災といったカテゴリーはありますが、堅苦しく考えず、そこに貢献するテーマであるという自信があれば、どんどん応募してほしいと思います。

本研究は分散システムによるボトムアップ型の社会を目指して、ブロックチェーンの課題解決を目指すもの。それでも「セキュリティに関わることだ」と気付いて応募したところ、採択していただいた。門戸が広い制度なので、ぜひ挑戦を

ブロックチェーンという分散台帳システムの仕組みと課題、解決のアプローチについて詳しくご説明いただき、ありがとうございました。金融のみならず幅広い分野で応用され、多くの人々の力によってあらゆるデータが安全安心に活用される未来が訪れることを願っています。

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