HOME > 研究者 > 首藤一幸先生 > 社会基盤たり得る分散台帳の研究(第2回)

マイニングの他に、分権化を妨げている課題はありますか。

ブロックのデータサイズも、分権化を妨げる要因の一つです。現在、ビットコインの全ブロックデータは320GBであり、各ノードはこれを保持しなければなりません。近年のコンピュータにとっては、さほど大きなデータではありませんが、より多くの人々にネットワークに参加してもらうためには、スマートフォンでもノードを立てられるシステムが理想です。

そこで、1ブロックのデータ容量を8KBまで軽減するデータ構造を考案しました。現在はノードがトランザクションの全データを保持していますが、これをデータ検証に必要な情報のみに限定し、大部分をクライアントが自己責任で保存・バックアップを行えば、ノードの保持データ量を劇的に減らすことができるのです。

1MBが8KBまで下がるとは、驚きです。スマートフォンでも容易に保持できるデータ量に落とすことで、結果的に分権化が進むということですね。公平性については、いかがですか。

公平性についてのこれまでの考え方は、実は「全ノードの9割が一瞬でもマイニングに参加可能であれば公平」という程度の、非常にゆるいものでした。

今後のブロックチェーンでは、ブロックの生成間隔は短縮される可能性が大いにあります。たとえばイーサリアム1ではブロック生成間隔が約15秒です。新規ブロックの到着に3秒かかるノードは、12秒しかマイニング競争に参加できないため、不公平性を被っていることになります。

新規ブロックはノード間のバケツリレー形式で伝搬されるが、その過程ではネットワークの回線速度が速い地域・遅い地域があるため、どうしても不公平性が生じる

具体的に、どのような状態であれば「公平性が保たれている」と言えるのでしょうか。

本研究ではノード間の公平性指標を「9割のノードが不公平性を被る確率が1%以下」と定め、公平性を一定以上に維持する「ブロック生成間隔調整法」を提案しました。

ノード間でブロックの伝搬遅延が生じているか、公平性が保たれているかどうかは、短期間では把握できません。また、ブロックの伝搬遅延を制御することも不可能です。一方、伝搬遅延により生じる孤立ブロックの発生率は、短期間で観察できます。そして、ブロック生成間隔はその気になれば制御可能です。

詳しい説明は省きますが、結論を言えば、孤立ブロック率に応じてブロック生成間隔を制御することによって、公平ノードの割合を9割以上に保つことができるのです。これはSimBlockのシミュレートでも確認できたため、システムの設計を目指し、研究を進めていきます。

ノード間の公平性指標(上)と、ブロック生成間隔調整のシミュレーション結果
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