そうです。ビットコインほどネットワークが大きくなると、実験的に新しい技術を導入してみるといった試みが極めて困難になります。そこで、世界中に散らばる数千以上のノードを模擬するブロックチェーンシミュレータ「SimBlock」を開発しました。これは、ブロックチェーンの規模やブロック生成間隔、ノードの挙動などを変化させたときの、ブロックチェーンネットワークの動きをシミュレートし、その効果や影響をパソコン上で検証できるツールです。インターネットのパラメータや、近年ビットコインに導入されたプロトコルにも対応させるなど、現在も更新を続けています。

SimBlockは2019年にオープンソースソフトウェアとして公開し、
無償配布を開始。ブロック伝搬の様子を確認できる可視化機能も備わっている
ビットコインのシステムは、取引の承認に最低10分かかる、ブロックのデータ容量が少ない、ノードが保持すべきデータ量が多い等の課題があります。しかし、安易にブロックの生成間隔を短くしたり、データ容量を大きくすると、フォークの発生率が上がってしまいます。
根本的な解決手段として、本研究ではブロック伝搬時間の短縮を目指しています。ブロックの伝搬が速くなれば、データ容量を大きくしても遅延の可能性が低減され、フォークの発生率も抑えられると考えています。
新規ブロックが生成・配布されるとき、各ノードが速く通信できる相手に優先的にブロックを送信していけば、効率良く配布されるはずです。しかし実際は、必ずしも近隣ノードでブロック伝搬が行われているわけではありません。
そこで、研究者やベンチャー企業が提供している「リレーネットワーク」に着目しました。ブロックチェーンとは別のネットワークを用いて、ブロックを素早く伝搬するサービスです。SimBlockを用いて、このリレーネットワークの利用効果を実験してみました。
その結果、ほんの少し、例えば1%のノードがリレーネットワークを利用しただけで、(利用していないノードを含めた)ノード群全体にブロックが届くまでの時間が、大幅に短縮されることがわかりました。加えて、1割程度の利用により、フォークによって生じる孤立ブロック(正規のブロックに選ばれず破棄されるブロック)の発生率が半減することもわかりました。

ビットコインネットワークにおけるリレーネットワークの効果を、SimBlockで実験
ブロックの伝搬時間の短縮や、孤立ブロックの発生率低下は、個々のノードのマイニング成功率には影響しません。それでも、運良く成功したとき、そのブロックが無駄になる可能性は低くなるという点においては、メリットがあるといえます。

記録が時系列順に保持され、かつ改ざんが難しいという性質から、食料品の来歴調査や貨物の追跡など、金融以外の分野でも応用研究が進められている