HOME > 研究者 > 首藤一幸先生 > 社会基盤たり得る分散台帳の研究(第1回)

2021年1月、1ビットコインの価格がついに4万ドルの大台を突破しました。暗号通貨は実態のないビットデータであるにも関わらず、その時価総額は100兆円以上となり、今後も上昇が見込まれています。

なぜ、国や中央銀行が価値を保証していない電子データが、支払い手段として用いられたり、投資の対象となっているのでしょうか。暗号通貨を実現した分散台帳技術について、東京工業大学情報工学院の首藤一幸先生にお話を伺いました。

まずは分散台帳について、教えて下さい。

分散台帳とは、複数のコンピュータがネットワークで繋がり、同一データを保持・更新していく仕組みです。「分散台帳=ブロックチェーン」と認識されることが多いようですが、正確にはブロックチェーンは分散台帳を実現する技術の一種です。データを格納したブロックが、1本のチェーンのように繋がっていく構造のことを指しています。

ブロックチェーンが社会に認識されたキッカケは、初の暗号通貨であるビットコインの誕生でした。2008年にサトシ・ナカモトの論文が発表され、2009年のソフトウェア実装・リリースから今日に至るまで、多くの人々がビットコインを購入し、ブロックチェーンのPeer to Peer(P2P)ネットワークに参加して、そのシステムを支えてきました。

P2Pネットワークとは、何ですか?

たとえば、ホームページの閲覧やインターネット配信動画の視聴は、ユーザがサーバからデータを受け取ることで実現します。P2Pではそうしたサーバが存在せず、複数のコンピュータがダイレクトに接続し合い、データのやりとりを行います。たとえばSkypeは、一対一型のP2Pシステムです。

ビットコインのP2Pネットワークは、全世界で約1万台のコンピュータが網の目のように繋がり、新しいデータをバケツリレー方式で配布することで、ビットコインの取引データを更新・保持しています。

P2Pネットワークに参加している全コンピュータ(ノード)が、ビットコインの取引情報を格納したブロックを保持し、新規データの検証、承認を行っている

サーバとユーザは上下関係にありますが、P2Pネットワーク上にいるユーザは、全員が対等なのですね。

はい。P2Pやブロックチェーンなどの分散システムが注目されているのは、メインサーバ等の「特定の誰か」を信用しなくてもいい、という非集中の特性が評価されているためです。このような非中央集権的な性質を「トラストレス」と呼んでいます。

ビットコインにも、政府や中央銀行などの巨大な信用対象が存在しません。ですが、トラストレスであるというだけで、電子データにお金と同じ価値がつくのでしょうか。

多くの人々がビットコインの価値を信じている理由の一つに、一度支払いに使用したビットコインを同じ人物が繰り返し使用できないという、現金と同様の「二重使用防止」の性質が挙げられます。これは暗号技術と分散システム技術の融合によって実現しています。

非常によくできたシステムですが、承認に要する時間が長い、データ量が大きいなどの課題はあります。そのため私の研究室では、ブロックチェーンのセキュリティ、性能、分権化、公平性を高めるための研究を行っています。

暗号通貨は現状「投機」の対象だが、暗号通貨を実現したブロックチェーンの性質は広い分野で注目され、応用に向けた研究が進んでいる
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