HOME > 研究者 > 角田篤泰先生 > 法令工学に基づく法令作成・検証の基盤構築(第2回)

条例を作成するだけではなく、シミュレーションも可能でしたね。

作成した条例がユーザの意図を正しく反映しているかどうか、条例をプログラムと見立てて動作検証をすることで確認するのが「法令シミュレータ」です。

たとえば「センターの施設利用は、事前に申請書を提出して受理された者のみ可能である」というルールを盛り込んで作成した条例に対し、「センターの利用を申請し、受理された者が、無断で別の人物にその権利を譲渡する」という仮説をシミュレータに設定すれば、シミュレータは「できない」という判断を下すはずです。もし、この仮説がそのまま実行されてしまったら、この状況を許してしまう穴が条例のどこかに存在しているということになります。

法令プログラムによるシミュレーション例

ソフトウェアの「バグ」を調べるように、「法令の抜け道」の有無をチェックできるということですね。施行された後に改正が必要になったときも、このシステムを使って改正法案を作成できるのですか。

改正法案の作成には、また別の問題があります。法令は改正する際にも、専門的な書き方のルールに則って行う必要があり、やはり間違いが起こりやすい手作業といえます。条文の書き方のマニュアル本の中に、改正法案の書き方も掲載されているのですが、例が載っているだけで、誰でも機械的に書けるほど明確にルール化されているわけではありません。

私は既に、このマニュアルを読み込んで、改正法案の書き方のルールをコンピュータ用に機械的に判断できるように新たに作り、政府のe-LAWSシステムでも一部に採用されています。そのルール作成時の知見も、この研究での法令コンパイラの開発に活かされています。

「コンプライアンス・モニタ」と「法令トレーサー」についても、詳しく教えてください。

コンプライアンス・モニタは、既存ICTシステムに組み込むことで、コンプライアンスの管理やモニタリングを行うシステムです。たとえばWebサイト上で規制条文に対応して、コンプライアンスに抵触する状況が発生した時にアラートを出したりするものです。規制条文を法令プログラムとして与えておいて、その条文通りの状況かどうかを判定するわけです。

法令トレーサーは、作成時に参照した法令や、意味的に関連する他の法令を自動的に検出する機能を実現したものです。このふたつは、プロトタイプではありますが、最終年度(平成31年度)の完成を目指しています。

システムの実用化までには、どのような課題がありますか。

まず、対象ケースを増やすことを始め、条例だけでなく、法律や契約・約款などにも広く拡張できるように、法的文書作成の方法論を分かりやすく整備するとともに、具体的な準備や調査を今後も続けていく必要があります。

また、世界標準仕様の法情報データを扱える英語版を開発し、海外でも活用できるものを作るべく、現在準備を進めています。

この研究で提供される具体的なシステムは現在のところ、国の法律づくりではなく、地方自治体の条例作りの支援を目的としていますが、その理由の一つが、国内法だけでは類似例が少なく、法令パターンを判定するためのデータを作ることが難しいためです。しかし世界の法律を対象とした場合は、参照するデータ量が増えるため、条例のみならず法律の作成支援も視野に入れた改良が可能だと考えています。

「作りっぱなしにしないのが私のポリシーです」。10年以上前に開発した教育支援システムも、すべてメンテナンスやアップグレードを行っている
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