高校生の頃から地球科学が好きでした。特に気象と地震に関心があり、専門選択の際は迷いましたが、地震学に決めました。というのも、気象は明日の天気すら当てることが難しい。それに対して地震は固体物理だから、観測すれば分かるだろうと思ったのです。
もちろん、現実はそのような単純なものではありませんでした。気象は基本的にすべて、観測自体は可能な空中や海中の流体の運動に支配されています。しかし地震は、プレート同士の関係は地中奥深くでの摩擦物理で、摩擦の元はミクロの力である一方で、プレート同士は何十キロメートルの単位で固着していたり、動いたりしており、そもそも直接観測することは極めて困難です。我々は地震によって起きる波動や、プレートのゆっくりとした動きを地表で“間接的に”観測しているだけなのです。地震は複雑な物理現象であり、いまだに全容解明の見通しが立っていないのです。

右はUAVの模型。同じ型の機体は現在、海洋開発現場などの監視・観測に使われ始めている
実は博士課程を修了した時、「自分は研究者には向いていない」と感じて、海上保安庁に就職しました。今思えば、研究ではなく「理学の」研究が向いていなかったのです。理学は、真実が1つしかない学問です。極端に言えば、真実に辿り着けなかった研究は意味がない。自分にとっては、肌に合わなかったですね。
専門が地震学だったため、海上保安庁では海底計測の仕事を割り当てられました。海底計測は工学です。工学は、正解が1つではありません。むしろ、UAVがあって、ボートもある方がいい。今では、正解が1つではない「ものづくりの研究」は、自分に向いていると気づきました。工学の研究に身を入れることになって、ようやく自分の好みがわかるようになってきましたね。振り返れば、辿ってきた道が偶然、産官学連携を実現しやすいところにつながっていました。
当初は私も含めて専門家が1人もいない分野ですから、審査はやりにくかったと思います。そんななか、継続審査の後に審査員の先生が「追加で実験データを見せてほしい」と言ってくださいました。しっかり向き合ってくださっていることを感じて、とてもありがたかったです。企業との共同開発のためお見せできない部分もありましたが、それでもできるだけ具体的にお示ししたいと思い、資料を作成しました。おかげでその後も、実験データの整理には一層気を使うようになりました。
本研究は企業と共同で行っているため、秘匿情報などもあり、進捗を逐一詳細に報告することは難しかったのですが、セコム科学技術振興財団ではその点もご理解いただき、柔軟に対応していただいたことに感謝しています。助成額が大きいのに提出書類が比較的少なく、時間と労力を研究に費やすことができました。

「UAVによる海底観測」というアイディアを実現するためには、高額の研究費が必要で、しかも複数年かかる見込みだった。そこで、長期にわたって手厚いサポートが受けられるこの研究助成への応募を決めた