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次世代の高速海底地殻変動観測を実現するためのUAV海底観測システムの実証(第2回)

東京大学

Yusuke Yokota

高精度の観測に成功したことで、UAVの実用化が近づいてきましたね。

そうですね。ただ、将来的にすべての観測をUAVで賄うつもりはありません。

最近、もう一つの新しいプラットフォームとして、無人ボートの開発を進めています。どんな観測手段にも長所と短所がありますから、1つに絞るのではなく複数のプラットフォームで観測を担うのが理想と考えています。

UAVの最大の強みは速度です。80km/hで飛べるので、他の手段に比べて圧倒的に速く、短時間で目的地に到達できます。ただ、飛行中や離着水の際の故障リスクは避けられません。一方で、無人ボートは現状10km/h出るか出ないかですが、軽量化の必要がないので強度を高めることができます。

本研究で開発したUAV内部の技術はそのままボートにも転用できるため、これまでの成果が大いに役立つと期待しています。

地殻変動をしっかり把握するためには、観測基準点は現状の倍は欲しいところ。無人機を利用して観測をコストダウンできれば、基準点の増加につながると期待している

現在、日本の観測基準点が60〜70点あるとのことですが、基準点ごとに観測機を使い分ける必要がある、ということでしょうか。

海洋での観測において留意しなければならないのが、海流です。

海上保安庁の設置した観測基準点は、南海トラフの海域に集中しています。この海域を北上している黒潮は、最大3〜4ノット(6〜7km/h)のスピードを持っており、それより速い無人機でなければ黒潮に流されてしまいます。したがって、高速のUAVによる観測が適しています。

残りの基準点は、東北沖にある日本海溝に沿って設置されています。この海域は海流の影響が少ないため、ボートでの定期観測が向いています。それに加えて、地震発生時など突発的にデータが必要になった時に、UAVを送り込むスタイルが効率的と考えています。

海上保安庁が管理している観測基準点の位置を示す図。地震の発生源となりうるプレート境界付近に集中して設置されている。
https://www1.kaiho.mlit.go.jp/chikaku/kaitei/sgs/gnss-a_timeseries.htmlより引用

今後の展望をお聞かせください。

UAVによる基本的な観測システムは完成して、観測精度も実証できましたが、連続的な自動観測を実現するためにやるべきことは、まだたくさんあります。運営体制の構築や、観測全体の自動化、コストの試算などです。それらを着実にクリアしていけば、10年以内に現在の観測船が主である環境から無人機が主である環境に代わり、30年後には海洋防災情報がリアルタイムに広く流通する、新しい海洋・海底把握の時代が来る。そんな未来を思い描いています。

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