セコム科学技術振興財団の一般研究助成を知ったのは、大学からの情報提供でした。採択された研究には土木系が少なく、錚々たる顔ぶれだったため、当初は尻込みをしていました。しかし、助成金の大きさと助成期間の長さに大きな魅力を感じ、「この研究の必要性をわかりやすく伝えることができれば、きっと評価してもらえる」と信じて、全力で申請書を作成しました。ありがたいことに採択していただき、助成開始から間もなく、非破壊検査学術奨励賞、非破壊検査協会論文賞を二年連続で受賞することができました。また、AI・データサイエンス論文集特別賞も受賞しました。

準備研究等の成果により、一般社団法人日本非破壊検査協会から、2021年に「学術奨励賞」、2022年に「論文賞」を受賞した
はい。準備研究を含めて3年間で終了する予定でした。実際、金属等の等方性材料に対しては、本格研究2年目で研究目標をほぼ達成することができました。しかし、コンクリートへの運用は十分な成果が出ていなかったため「あと1年研究させてほしい」と、無茶を承知でお願いをしたところ、承認していただけました。
そのおかげで、コンクリートに対しても良い成果が期待できるところまで到達しました。本当に、心から感謝しています。
先ほどお話しした機械学習が専門の加藤毅教授の他にも、防衛大学校の滝口孝志准教授には超音波イメージングの数理モデルに関する助言をいただき、学生時代からの恩師でもある東京工業大学名誉教授の廣瀬壮一先生には、非破壊評価に関する幅広い意見交換をさせていただきました。この素晴らしいチームに恵まれたからこそ、ここまでの成果を出せたと実感しています。
一方で、まだ足りない、社会に役立つ研究成果をもっと出せるはずだ、とも考えています。現代は多くの情報が入手しやすくなり、論文の検索や閲覧も容易になりました。それは、戦後の何もない時代に廣瀬先生のような60~70代の先生方が創意工夫を重ねて必死に研究を続け、科学技術を発展させ、多くの構造物を建てて社会を再生してくださったからです。当時の話を聞くたびに、研究への情熱やパワーに圧倒されて「自分ももっと努力をしなければ」、「まだまだできることがあるはずだ」と、研究者として思いを新たにしてきました。
この研究で得た経験や技術を生かすため、最近は量子コンピュータのシミュレーターやプログラムの開発研究にも携わっています。量子コンピュータが実用化されれば、計測やセンシングのあり方が大きく変化し、医療に対する非破壊検査やモニタリング検査等も様変わりするかもしれません。その時に備えて、今からできる限りの研究をしておきたいと思っています。

これまで行ってきた超音波シミュレーションや、イメージングの研究を基礎として、AIまでも融合させて取り組む本研究を認めてもらい、研究を続けるための大きな力をもらった。そのことが何よりも嬉しい、と語る斎藤先生