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弾性波動論とAIの融合による完全非接触レーザー超音波非破壊検査システムの開発(第2回)

群馬大学

Takahiro Saitoh

それでは、コンクリートを対象としたUTの研究開発についてお教えください。金属と比べて、どのような違いがあるのでしょうか。

鋼やアルミニウムなどの金属はすべての方向において同一の特性を有していますが、コンクリートはセメントと水に加えて、ランダムに骨材(砂利や砂)が混ざっており、均質ではありません。そのため、超音波がどのように伝わるのか、そもそもコンクリートの非破壊検査にレーザーを用いたUTが適用可能なのか、その検証から始める必要がありました。

結論から言えば、レーザー照射面の超音波伝搬を可視化し、AIによって欠陥の有無と位置を検出するこれまでの方法は、コンクリートにも有効であることがわかりました。ただし、金属のような等方均質な素材とは超音波の伝わり方が大きく異なるため、新たに実測データとシミュレーションデータの作成、および超音波イメージングの構築が必要でした。

まずは、2種類のデータ作成から開始しました。60㎝四方程度のコンクリートブロックを用意し、医学部に依頼をしてCT画像を撮ってもらいました。そのデータから3次元モデルを作成し、シミュレーションの基盤としました。

医学部の協力を得て作成したコンクリートブロックのCT画像と、超音波伝搬のシミュレーション

次に、試験体に穴をあけてレーザーを照射するLUVT(レーザー超音波可視化試験)を実施し、超音波の伝搬を可視化しました。骨材の影響で波に多重散乱が生じるため、鋼材等とは様相が異なりましたが、欠陥部分で波が回り込むような動きをすることが確認できました。

現在はLUVT画像を大量に作成し、コンクリートに対する超音波イメージングの構築、AIが高い精度で欠陥を検出するためのアルゴリズムの開発に取り組んでいます。

コンクリート試験体へのLUVT実施と、超音波伝搬の可視化結果。骨材による多重散乱は、中央の欠陥付近でその影響が小さくなる

金属等の素材とコンクリートでは、波の伝わり方が異なるのですね。他に、どのような違いがありましたか。

たとえば鉄筋コンクリートの構造物の場合、表面の軽微な亀裂はさほど問題になりません。注意すべきは、将来的に鉄筋の方向へと伸びていく亀裂や、開口が大きな亀裂等、鉄筋の腐食リスクが高くなるような亀裂です。それらは構造物全体の耐久性に悪影響を与える可能性があります。

他にも、コンクリートが劣化した部分に鋼板を貼って補強している古い橋梁等では、コンクリートと鋼板の間に水が溜まって腐食し、空洞ができてしまうケースもあります。

このように、コンクリートの構造物は着目すべき欠陥が多様です。本研究では、まずは穴(空洞化)を対象に、欠陥の有無を確認できるシステム構築を進めています。

多くのコンクリートの構造物はかなり厚さがありますが、この検査方法では、何メートルくらいの幅まで対応できるのでしょうか。

測定可能な幅は、レーザーの強さに依存します。たとえば橋脚の床板は、一般的に数十センチメートルの幅があるため、かなり強いレーザーが必要になりますが、そのレベルで照射できる設備があれば、検査は可能です。

ただし、金属とコンクリートでは扱う超音波の波長が異なります。骨材の大きさ等も考慮しなければなりません。そのため、助成費を投じてコンクリート専用の超音波センサ等を特注し、現状のレーザー設備を改良しました。

また、試験体の調達にも苦労しました。金属は機械系や航空系など幅広い分野で使われているため容易に入手できましたが、コンクリートを用いるのは土木系のみであり、発注してから作成されるオーダーメイドです。時間とコストがかかり、さらに「内部に欠陥があるコンクリートブロックをどのようにして作るか」という問題にも、頭を悩ませました。

学生時代から非破壊検査の研究に取り組んできたが、長く超音波シミュレーターの開発を行っていた。「高性能のレーザー機器があればこの検査を実際に行うことができる」と一念発起したことが、本研究の第一歩だった

コンクリートを対象にすると、データだけではなく機械設備や試験体の確保など、多くの課題があったのですね。

大変ではありましたが、その分、本研究は非破壊検査において非常に貴重な技術とデータを創出できると考えています。

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