「地域アセスメントの継続性と高度化を両立する情報共有システムとその導入方法論の構築」

開発したアプリケーションの一般化を目指す

今後は参加者からの要望に応じて、記録する情報をスマートフォンなどのモバイル端末からでもカスタマイズできるよう、アプリケーションをさらに洗練させていく予定です。その適用例として、昨年度まで、地域の騒音状況について試験的にモニタリングをしていました。音響や騒音に関する業務に従事している方に依頼をして、一定期間、日常的な状況下で環境騒音を録音してもらいました。その際に、主観的な騒音の大きさ、うるささ、その際のストレスや騒音感受性の状況、疲労感を記録して頂きました。その記録を詳細に分析した結果、興味深いことがわかりました。騒音の感じ方(アノイアンス)は大きく5群に分類できるということです。

また、バリアフリー情報について機械学習を用いて、全天球(360度パノラマ)画像への自動アノテーション、つまり画像などのデータに人、物などの意味づけを行うことができる発見支援システムを開発しました。

さらに、継続的に情報を収集するために、多くの地域住民に継続してワークショップに参加してもらうための方法論を検討・分析しています。最終的には、開発したアプリケーションの一般公開を目指します。

主観情報と客観情報を同時記録するアプリケーションのインタフェース(騒音状況の場合)

イベントで使用されると、次のイベントに繋がりやすい

現段階では、本郷の地域町歩きイベントなどで活用して頂いています。喜ばしいことに、こうしたイベントには、他地域で同種のイベント企画を考えている方が参加している場合が多いため、そこで知り合った方々が主催する別イベントでも使用してもらえるようアプローチできます。

一度イベントで使用されれば、別イベントに拡大していく可能性が非常に高いことから、本システムが完成した際、社会実装されるスピードは予想以上に早くなるのではないかと、大いに期待しています。

本郷地区での車椅子を使った街歩きの様子

学術的な新規性が弱いため、専門家の評価が分かれる

ただし本研究は、私の論文執筆能力も相まってか、専門家である論文の査読者からの評価が「高低」の両極端に分かれる場合が多いです。評価が低い理由としては、学術的に高い新規性がある訳ではないため「これは研究ではない」と一方的に判断されてしまうことが多いようです。

本研究はシステムインテグレーションと呼ばれる分野で、その分野の研究者は「既存のものを組み合わせただけに過ぎない」という言い方を常にされます。科研費など他の研究助成においても、申請を通しにくい分野でもあると思います。

しかし既存の技術を組み合わせること自体が難易度の高い作業であり、私は最終的に社会実装が可能になったとき、障害をお持ちの方をはじめ日常生活に不自由を感じている多くの人々の役に立つことを最重要課題として研究を続けてきました。セコム科学技術振興財団の挑戦的研究助成に申請したのは、システムの新規性よりも、こうした社会実装に主眼をおいている点を正しく評価してもらえるのではないかという期待があったためです。

研究の社会的な意義についてアピールすることが望ましい

セコム科学技術振興財団に対して、「高額」かつ「求められる研究テーマに完全にマッチングしないと採択されづらい」というイメージがあり、ハードルが高いという印象をもっていたのは事実です。ですが、若手研究者向けの助成制度ができたことに大きな驚きを感じるとともに、非常に頼もしく思いました。現在、科学技術系の研究を支援する他の財団からの助成が、減少していく傾向にあるからです。

また、2年目への継続面接やその前のメンタリングを受けた印象ですと、「審査でふるい落とす」という雰囲気ではなく、どうすれば研究のクオリティを上げられるか、という目的に沿って積極的なディスカッションすることができたと感じました。「予定通りシステムが完成したとして、それをどのようにして評価するのか」という指摘を受け、自分自身の研究の将来設計について、まだまだ考えが甘かったと前向きに反省することができました。現時点で探索的な研究にも関わらず採択してもらえたのは「社会にとって意義のある研究」を特に重視してくださっているからだと思います。

これから申請を検討されている若手研究者の方も、申請する前から諦めたりせず、研究の本来的な意義と、それが実現したときの社会貢献度について、粘り強く周囲にアピールを続けていくことができれば、進むべき道が拓けていくのではないでしょうか。

左から、研究に協力されている「本郷いきぬき工房」の村上さん、瀬川さん。銅像は近代日本の工学教育の礎を築いたとされる古市公威(1854〜1934)