「子どもによるオンラインゲーム上のまちづくりとそのロジスティクス」

挑戦的研究助成で生まれた「いい想定外」

そんなとき、大学のメーリングリストで、セコム科学技術振興財団の挑戦的研究助成を知りました。挑戦的研究助成には「安心安全な社会を実現し、新しい研究領域を開拓するもの」という自由度の高さがあり、私が試したい研究を、ほぼそのまま実現することができました。メンタリングや年度毎の面接でも「短期的な結果を求める研究ではない」とご理解いただき、生産的なアドバイスを頂戴して、研究をより円滑に進めることができました。本当に感謝しています。

研究を進めるなかで「いい想定外」も生まれました。当初、N高等学校のプログラムでは、技量の高い生徒が一気に作品を完成させることを予想していたのですが、話題が広まるにつれ、マインクラフト未経験者が参加を希望するようになり、上手な生徒が初心者に教えるといった役割分担が自然に発生しました。本研究のプログラムが実験的に終わらず、生徒たちの自主的な部活運営に変化しようともしており、彼らの学習意欲が高まっていることを確認しています。

私たち研究者の目的は「オンラインゲームを通して多様なステークホルダーが関わる建物やまちの保全方法の開発」ですが、子どもたちは「リアルでの仲間づくりや、社会的承認を得ること」、地域の方々は「地域の活性化」など、プログラムに関わる上でそれぞれ目的が異なります。しかし、異なる目的を持ちながらも、同じ方向を向いて進んでいます。さまざまな人々を巻き込み、ゆるやかに繋がりながら、その先で全員の目的が達成されるという確信があります。

既存の建築学にない新しい建築教育学を開拓する

建築学は「安全で快適な暮らし」を実現するためにあります。幾何学の理解や耐震性の計算などの理系分野から、人間の暮らしの質を考慮する文系的側面も鑑みる必要がある「総合的学問」です。本研究をきっかけに、学問の敷居にとらわれない「新しい建築教育学」を実現したいと考えています。

挑戦的研究助成の自由度の高さのおかげで、研究を進めることができた
インタビュー内容と先生の経歴等は2018年6月現在のものです。