「ヒューマンファクターに基づいたWSSデシカントシステムの省エネ・安全自動制御技術の研究開発」

さらなる省エネ性を実現するWSSデシカントシステム

このPMVコントローラーは、赤外線通信が搭載された機器であれば、扇風機や加湿器など、あらゆる機器に適用可能ですが、まずは私の研究テーマであるデシカントシステムに組み込み、さらなる省エネ性の向上を試みています。

デシカントシステムとは、エアコンで温度調節を、外気処理空調器で湿度調節を分担処理することにより、エネルギーの無駄を低減する仕組みです。従来のデシカント空調機は高価なものですが、稚内層珪質頁岩(WSS)という天然の多孔質材料を除湿ローターの基材とすることで、大幅なコストダウンが可能になりました。これは、NEDO省エネルギー革新技術開発事業からの委託研究です。北海道大学の長野克則教授の統括のもと研究開発が遂行され、私も開発に携わりました。

一般家庭で導入可能なレベルにコストを抑え、PMVコントローラーによる高い快適性・省エネ性を実現したWSSデシカントシステムを確立することが、本研究の目標です。

鍋島先生が開発したWSS除湿ローターとデシカントシステム(ローターは(株)テクノフロンティアより提供されたもの)

審査員の言葉で、研究のゴールが見えた

私は助成金の申請書を作成するとき、研究内容を絞って専門性を高めるべきか、幅広い応用が可能な研究を目指すべきか、いつも迷います。この挑戦的研究助成では後者を選びましたが、二次審査の面接で「ヒューマンファクターをどう実現するのか」「どのようなパッケージを目指すのか」など、実践的な部分に対するご指摘をたくさんいただき、実際に形になるものを求められていることがわかりました。そのため、共同研究者の木村竜士先生(高知工業高等専門学校)と相談し、技術開発だけではなく商品化を目指して取り組むことを決意しました。

メンタリングでも「まずは一般家庭用に開発し、狭い空間で実現できる技術を確立しなさい」とアドバイスをいただき、助成期間中に目指すべきゴールが明確になりました。継続審査は緊張しましたが、2年目、3年目にやるべきことが固まっていたため、研究成果をアピールするつもりで臨みました。実際は審査というよりディスカッションに近く、ますますモチベーションが上がりました。

先生とともに、実験室で研究に励む学生たち

“世の中に普及する安価なハイテク”を生み出す研究者でありたい

どんなハイテクノロジーであっても、それは必ずしも「見たことがない新しいもの」ではありません。既存の技術を組み合わせ、それらの精度を上げることで、新しく高度なテクノロジーを生み出すことができると信じています。

世の中に受け入れられて普及するのは、ローテクをブラッシュアップすることで生まれた安価なハイテクであると私は考えています。これからも、そうしたモノを開発する研究者であり続けるつもりです。

ローテクを極めることでハイテクを生み出す、それが研究者としての信条
インタビュー内容と先生の経歴等は2018年5月現在のものです。