
先述したように、DNA損傷ストレスにより、本来、色素細胞がないはずのマウスの足裏に色素沈着が発生しています。ここから、何らかの細胞が色素細胞に転換したのではないかとか考え、その起源細胞について調べました。
その結果、通常の環境下では半永久的に眠っているが、DNA損傷によって色素幹細胞に分化(転換)する細胞集団を特定しました。現在はこの起源細胞について詳細を明らかにするため、引き続き研究を続けています。
これまで色素沈着は、色素細胞の増加によって誘発されると考えられていました。しかし本研究により、周辺細胞のDNA損傷応答が引金となっていること、またDNA損傷応答により眠っている細胞が活性化し、色素細胞に転換して色素沈着を誘発する場合があることが示されました。今回はDNA損傷ストレスという環境因子を扱いましたが、今後は加齢に伴う色素沈着に関しても、色素細胞以外の起源細胞由来かどうかを検証していくつもりです。
そして次のステップでは、色素細胞に転換する起源細胞が、先に述べた皮膚がんの一種であるメラノーマに形質転換するかどうかを明らかにしたいと思っています。これを切り口に、がんの新しい発症機構を提案し、将来的には基礎研究の立場から、臓器老化やがんの予防法や治療法の開発に貢献したいと考えています。
挑戦研究助成のことは大学からの通知で知り、研究室のメンバーから薦められて応募しました。研究助成に応募するのは初めてだったのですが、周囲の人たちにサポートしてもらい、無事に申請できました。
面接では「老化をテーマにしているが、皮膚や色素沈着だけに注目するのは不十分ではないか」など、厳しいご意見を多くいただきました。それもあって心配していたのですが、採択された時には本当に嬉しかったです。継続審査やメンタリングでも同様の指摘をいただいたことで、多分野への応用や、予防や治療法開発への貢献についても意識するようになりました。
潤沢な資金を支給していただいたおかげで、研究を順調に進展させることができました。独立を控えた研究者の中には、経済的に苦労されている方も多いと思います。そのような時に、大いに支えになる助成なので、思い切って挑戦してみてほしいと思います。
面接はたいへん緊張したが、貴重なご意見をいただくことができ、深く感謝している