「ヒト脳進化をもたらした遺伝子プログラムの探索」

変異型遺伝子の増殖が脳腫瘍の発がんを促進することを発見

一方で、近年、NOTCH2NL遺伝子は脳腫瘍の発がんを促進することが報告されました。そこで、変異型と脳腫瘍の関係について調べるために、脳腫瘍組織を解析したところ、NOTCH2NL遺伝子の変異が脳腫瘍と関連していることがわかりました。

なお、同一の患者の正常な細胞と脳腫瘍の細胞の比較解析結果からも、同様の結果が得られています。これにより、突然変異により機能が変化したNOTCH2NL遺伝子の存在または増殖により、脳腫瘍発がんのリスクが増大することが明らかになりました。

分化培養実験モデルは、留学先の研究室で学んだもの。 本研究では実験法の改良に取り組み、複雑な実験ができるようにした

難病の治療法開発と、ヒト固有の性質がいかに形成されたかを追求

現在も公共のデータベースに掲載されていないヒト固有遺伝子の探索を続けていますが、発見しても、それが人類の進化や疾病に重要な意味を持つことを証明するためには、本研究のように多くの過程を踏まなくてはなりません。本研究で扱ったNOTCH2NL遺伝子の突然変異にしても、ゲノム解析の結果、人類に広く普及していることが判明してから、ようやくその重要性について確信が持てるようになりました。

また、事務的な諸手続きにも苦労しました。特に、大脳皮質幹細胞や脳のMRI画像およびヒトゲノムのデータベース使用にあたっては倫理申請が必要で、センシティブなテーマゆえの審査の厳しさを実感しました。

こうした困難は伴うものの、ヒトの進化や難病の治療法の解明につながる可能性が高い研究なので、取り組む価値は十分にあると自負しています。今後は、こうしたテーマとともに、皮膚の汗腺と体毛の関係など、脳以外の部位に関しても、進化の過程でヒト固有の特徴や性質がいかに形成されたかについて、ゲノムのレベルから明らかにしたいと考えています。今回の研究を重要な足掛かりに、「ヒトらしさ」を追求するための研究を大きく発展させていく所存です。

メンタリングでは貴重なアドバイスを受けられる

挑戦的研究助成のことは、同じ研究分野の懇意にしている先生が受けられていたことで知りました。セコムはセキュリティ分野を代表する企業というイメージが強かったのですが、ライフサイエンス分野の研究を手厚く支援していただけて、深く感謝しています。

特に有難かったのは、メンタリングです。メンターの先生からは今回の研究だけではなく、研究者としての今後についても異なる視点から温かいアドバイスをいただき、感謝しかありません。また助成金が高額で、使途もかなり自由に認めていただいたので、研究を大きく進めることができました。

研究者として大きくステップアップする機会を与えてくれる助成制度だと感じました。取り組みたいテーマがある研究者は、積極的にチャレンジしてほしいと思います。

メンターの先生方と密にコミュニケーションをとり、貴重なアドバイスをいただくことができた。研究を全面的にサポートしていただいて、深く感謝している