所属
名古屋大学 環境医学研究所 神経系分野Ⅱ

職名
講師

キーワード
光イメージング 光操作 神経回路 概日時計 視交叉上核

助成期間
平成31年4月─令和4年3月

研究室ホームページ
研究者ホームページ
平成24年

北海道大学 大学院 医学研究科 博士課程修了 博士(医学)


  同 年

北海道大学 大学院 医学研究科 光バイオイメージング部門 博士研究員


平成25年

北海道大学 大学院 医学研究科 光バイオイメージング部門 特任助教


平成28年

名古屋大学 環境医学研究所 特任助教


平成28年

名古屋大学 環境医学研究所 助教


令和2年

名古屋大学 環境医学研究所 講師



概日時計とは何か

私たちは真っ暗闇の部屋で、時間の情報が分からない中で生活しても、およそ24時間の周期で睡眠と覚醒が持続されます。この内因性のリズムを概日リズムと呼びます。これは、マウス、鳥、魚、植物やバクテリアまで、地球上のすべての生命が持つ普遍的な機能です。

概日リズムは、睡眠と覚醒の調節だけに関わっているのではありません。たとえば、出産の確率は明け方に高かったり、心筋梗塞は午前中が多かったり、様々な生体機能のタイミングを調節しています。

では、このリズムを動かしているものは何でしょうか。それは「時計遺伝子」であると、考えられています。2017年に3人の米国人科学者が、体内の概日リズムを制御する分子メカニズムを発見し、ノーベル生理・医学賞を受賞しました。これは、遺伝子が24時間周期で自身の転写を抑制・調整して、自律的な発現リズムを作り出す仕組みです。したがって、これらの遺伝子の機能が欠損すると、概日時計が機能しなくなります。しかし、最近では時計遺伝子に関わらない未知なるリズム振動メカニズムの存在も示唆されており、今後の研究により新しい概日時計機構が見いだされるのではないかと考えています。

概日時計によって様々な生理機能のタイミングが調節されている。このときに働く神経回路を明らかにしたい

ブラックボックスへの挑戦

では、私たちの身体のどこに、この仕組みが備わっているのでしょうか。実は、私たちの身体を構成するすべての細胞の中に、24時間を生み出す概日時計は備わっています。さらに、脳内の視床下部にある視交叉上核という領域に、概日時計の中枢が存在することが知られています。中枢と末梢に時計が存在することは、複雑だと思われるかもしれませんが、社長と平社員といった関係性に例えると分かりやすくなります。

概日時計は様々な生理機能のタイミングを調節していますが、うつ病などの精神疾患との関連性も示唆されています。しかし、この両者がどのようなメカニズムで結び付いているのか、また、その分子メカニズムも明らかにされていません。

現代人は学校や職場などの人間関係の中で、過度なストレスにさらされています。また、人工照明の下で、24時間いつでも活動ができます。このストレスや人工照明によって概日時計の機能が破綻すると、睡眠障害が引き起こされます。これにより、交通事故、医療事故、産業事故などを招き、その経済損失は年間数兆円にのぼるという試算があるほどです。これらの問題は、私たちが今まさに解決しなければならない課題の一つと言えます。私は、脳内の複雑な神経回路を理解することで、この問題を解決できるのではないかと考えています。

たとえば自家用車が走行不能になり、かつエンジンに問題があった場合、私たちは「エンジンが原因で走行不能になった」と、結論付けられるでしょう。これは自動車の設計図があるからです。しかし、概日時計の破綻と精神疾患が同時に生じた場合、その因果関係を特定する事はできません。この設計図に相当するのが、神経回路と考えています。概日時計からどのような神経回路を介して、精神疾患やその他様々な生理機能の時間調節を行っているのかを明らかにすることが、私の研究テーマです。