大阪大学 大学院 工学研究科精密科学・応用物理学専攻 博士課程修了 博士(工学)
日本学術振興会 特別研究員(DC1)
金沢大学 理工研究域 バイオAFM 先端研究センター 博士研究員
大阪大学 工学研究科 精密科学・応用物理学専攻 助教
科学技術振興機構 さきがけ研究者(兼任)
大阪大学 工学研究科 物理学系専攻 応用物理学講座 助教
私の研究領域は、ナノスペクトロスコピー(Nano-Spectroscopy:ナノ分光)です。ナノとは、10のマイナス9乗(10億分の1)という極小の単位です。そして分光法とは、物質にさまざまな波長の光を照射し、どの波長の光をどれだけ吸収するかによって、物質の特性などを知る方法です。ものすごく小さな世界で分光法を専門にしている物理学者といえば、多少は理解しやすいでしょう。研究室では主に、従来の光学顕微鏡では不可能だった“可視光でナノ単位の物質を観察する方法”の実現に取り組んでいます。
ところで、皆さんは「金属に光を当てる」と、どうなると思いますか?
多くの人が「金属の表面で、光は反射される」と答えるのではないでしょうか。
確かに金属は光を反射しますが、金属表面の自由電子(原子内に束縛されずに自由に運動する電子)には、光の一部と結合して伝搬させる働きがあります。
この性質を利用して、金属片をテーパー型(先尖型)に加工し、様々な色の光を一度に当てると、その先端で発光現象が生じます。超広帯域なナノ増強光場を生成できるのです。
非常に小さいこの光を分子に当てると、その分子がどのような結合をしているのか、どのような相互作用の状態にあるのか等が分かり、結合の伸縮や回転による光吸収の度合いを計測することができます。私は、この広帯域な光の観察対象範囲が広いことに興味を持ちました。
分子をナノレベルで計測する方法はいくつかありますが、代表的なものは、特徴的な光学特性を持つ金ナノ粒子に光を照射し、生じたナノ光源によって試料の性質を観測する方法です。ただし、金ナノ粒子から生ずる光で試料を計測する場合は、その金ナノ粒子に“共振”する特定の光でなければなりません。従来型の計測方法は、ほとんどが“共振”を利用するものです。生じる光は可視光や赤外線のある波長のみであり、分析範囲が狭いというデメリットがあります。
そこで本研究では、テーパー型金属のプラズモンカップラと呼ばれる部分に幅広い波長域の光を照射することにより、少し離れた先端まで光を伝搬させることで、広帯域なナノ光源を生成する技術を構築しました。この伝搬を専門用語で「プラズモン超集束」といいます。
プラズモン超集束のメリットは、可視光から赤外域まで、広い帯域の光を同時に照射できる点です。その結果、1分子レベルから高分子レベルの大きなものまで、階層性を超えた計測が一挙に可能になります。
また、本研究で構築した伝搬現象なら、入射光を直接試料に照射する必要はありません。実験においても、自家蛍光ノイズの除去に成功しました。従来型の計測方法が「昼間に星を観察する」ものであるなら、この方法は「漆黒の闇夜で星を観察する」ものとイメージしていただければ、わかりやすいかもしれません。
このように、プラズモン超集束を用いた共鳴フリーの計測方法は、階層性を超えた計測が可能であるとともに、試料への影響を最小限に抑えられるため、生体分子などの小さく壊れやすい物質を計測する際にも有効となります。