「植物における細胞運命決定機構の解明」

時間的側面が明らかになることで、細胞運命決定の本質に迫る

そこで本研究では、情報科学の専門家の協力を得ることで、これまで不可能だった時系列1細胞トランスクリプトーム解析を可能にしました。この新たな解析方法はPeakMatchと名付けました。

これまでの生物全体を用いた解析では、時系列解析は可能ですが、空間分解の解像度が低いことが課題でした。一方、1細胞トランスクリプトーム解析は、これまでと同じようには時系列解析ができません。PeakMatchを用いれば、1細胞レベルの空間解像度で時系列解析が可能となり、両方の解析方法の長所をひき出すことができます。二部グラフマッチングと呼ばれる問題に落とし込むことで計算量を劇的に短縮し、わずか数分で最も可能性が高いマッチングを計算することができるのです。これにより、概日時計が細胞運命決定機構に与える影響の時間的側面が明らかになれば、脱分化のタイミングにおける重要要素も判明すると考えられます。これを動物細胞で明らかにされつつある知見と合わせることにより、細胞運命決定機構の本質に迫ることが期待できます。

これまでの再生医療分野の研究では、動物由来の細胞が用いられることがほとんどでした。植物で見られる分化全能性の仕組みと合わせて理解しようとする研究はなかったため、再生医療分野をはじめとした、さまざまな分野への応用が期待できます。それが安全安心な社会の実現への貢献に繋がればと願っています。

挑戦的研究助成に採択され、研究者として成長するきっかけになった

セコム科学技術振興財団については、科学技術振興機構の「さきがけ」で共に研究していた谷内江望先生に教えてもらいました。話に聞いていた通り、1年ごとに継続審査はあるものの、審査を通過すれば最大で3年間助成してもらえることは非常にありがたいです。「セコム科学技術振興財団の挑戦的研究助成に採択された」という経歴は、他の研究助成に応募する際の合否に少なからず影響していると思います。 

助成金は、主に植物を培養するインキュベーターと、遺伝子発現解析に使用しました。なかでも遺伝子発現解析は動物・植物問わず、大きな金額がかかります。遺伝子発現解析ができないことには、本研究が成り立ちませんので、本当に助かっています。

また、本研究は、植物の狭い範囲の研究から動物に至るまで、かなり広範囲の分野について言及しようとしています。そのため広い視野が必要となりますが、どうしても一人では限界があります。また、研究をしているときは「論文を通す」ことを優先し、近視眼的な研究に陥りがちです。メンタリングでは目標設定に関して、複数の先生からアドバイスをいただくことができ、そうした点を改善していくことができました。定期的に研究を振り返り、ご指摘いただける機会を得られたことで、研究者として成長できたと実感しています。

助成金を活用し、より効率的に実験できるようになった

植物系の研究でも助成対象になる

セコム科学技術振興財団というと、名前の印象から、セキュリティやIT系の分野を重点的に助成していると思われている方が多いかもしれません。ですが、私のように植物系の分野でも、革新的かつ社会貢献へと繋がる可能性があるのなら、助成してもらえる可能性があります。その事実を、これから申請される皆様にも知っておいていただきたいと思います。

余談ですが、今回の共同研究者である情報科学の専門家は、私が大学生のときに所属していた部活の先輩です。偶然お会いした際に研究の話をしたところ「もしかしたら役に立てるかもしれない」と、協力してもらうことができました。

私の場合は元々知っている方ではありましたが「助成をきっかけに研究者の輪が広がる」ことも、充分期待できます。そのような意味でも、申請する価値があると思います。

「植物にとって何が本質的に重要なのかを見極めるために、巨視的な視点を大事にしている」と語る遠藤先生と学生たち