所属
東京大学 先端科学技術研究センター 合成生物学分野

職名
准教授

キーワード
合成生物学 システム生物学 生命情報科学 DNAシーケンシング

助成期間
平成29年4月1日〜平成32年3月31日

研究室ホームページ
2009年3月

慶應義塾大学政策・メディア研究科 先端生命科学プログラム 早期修了 博士


同 年4月

慶應義塾大学先端生命科学研究所 研究員


2010年4月

ハーバードメディカルスクール Fritz Roth研究室 博士研究員


2010年12月

トロント大学 Fritz Roth研究室 博士研究員


2014年6月

慶應義塾大学先端生命科学研究所 特任講師(兼務)


2014年7月

東京大学先端科学技術研究センター 合成生物学分野 准教授


2015年4月

慶應義塾大学先端生命科学研究所 特任准教授(兼務)



現在の生物学は「現在」しか観測できない

現在の生命科学は、目の前にある試料や細胞しか調べることができません。

たとえば悪性腫瘍に抗がん剤を投与すると、がん細胞が死滅し、腫瘍は小さくなります。しかし薬に耐性を持つ細胞が腫瘍の中に存在していた場合、その一部が生き残り、時間の経過とともに増殖し、腫瘍が再び大きくなってしまうことがあります。

このとき、抗がん剤の投与後に生き残った「薬剤耐性を獲得した細胞」の遺伝子発現状態や、ゲノム配列などの解析を行うことは可能です。しかし、抗がん剤を投与する前に「将来、薬剤耐性を獲得する細胞」がどのような性質を持つ細胞として腫瘍の中に埋もれていたのか、それを知る方法は、現時点では存在しません。

もし、時間経過や任意のタイミング(例えば薬剤投与など)で何らかの変化が生じると考えられる細胞をあらかじめ特定し、その細胞のみを取り出すことができる技術があれば、その細胞の経時的な変化を観測したり、再配合による細胞集団の再構築が可能になります。それは、生物学における新たなアプローチの誕生になる──この研究プロジェクトを立ち上げた動機です。

細胞に導入するDNAバーコードライブラリーを準備するために使われている実験自動化装置

過去に遡って任意の細胞を解析できる手法

この研究では、出芽酵母細胞、がん細胞、線維芽細胞など、さまざまな細胞を対象に「細胞集団に何らかの変化が生じたとき“その現象が起きる前の状態の細胞集団”の中から任意の細胞を取り出し、解析できる技術」の開発を目的としています。

まず、一つひとつの細胞に異なるDNAバーコードを挿入します。DNAバーコードとは、遺伝子の4つの塩基(A,T,G,C)で作る任意またはランダムの配列です。本研究では105〜107種類のランダムDNAバーコード作り、ウイルスを介して培養細胞の染色体に組み込んでいます。

次に、少し培養したバーコード化細胞集団の半分をストックとして保存します。このストックが「何らかの現象が起きる前の状態の細胞集団」となります。そして、もう半分の細胞クローンに抗がん剤を投与し、薬剤耐性を獲得して生き残った細胞クローンのDNAバーコードを特定します。この薬剤耐性を獲得した細胞と同じDNAバーコードを持つ細胞クローンが、ストックしていた細胞クローン集団の中にも存在します。それが「将来、薬剤耐性を獲得する細胞」というわけです。

ただし、悪性腫瘍や、生体外で増殖させた培養細胞は、同じ性質を持つ細胞の集合体ではありません。異なる性質を持った不均質な細胞クローンの集団であるため、通常はその中から任意の細胞を見つけ出し、集団の中から分離させることは極めて困難です。

今回開発した手法では、すべての細胞に異なるDNAバーコードを挿入したことにより、特定のDNAバーコードを持つ細胞を蛍光ラベルすることで単離を可能にしています。

週1回のミーティングでは、世界で発表された技術について意見交換を行う