「不均質な癌細胞集団を個別のクローンに解体して調べる新しいDNAバーコード生物学」

研究者として歩むべき道を決定づけたのは、二人の恩師

私の研究は、即座に今流行りの生物学に新しい知見をもたらすものではなく、他の研究者からも「何を目的とした研究なのか、よくわからない」と言われることがあります。ですが、それを気にしたことはありません。

私が研究者として目指しているのは、技術革新が目覚ましい現代においても50年程度、つまり半世紀は人々の研究に役立ち、将来は生物学の教科書に掲載されるような、新しい基礎技術の開発です。

このような方向性を持ったのは、慶應義塾大学で冨田勝教授の研究室や、ハーバード大学でFritz Roth研究室(後にトロント大学に共に異動)に所属したことが、大きく影響しています。冨田教授もRoth博士も、コンピュータサイエンスを使って生物学の研究を行うことがまだ一般化していなかった時代に、精力的にバイオインフォマティクス(生命情報科学)に携わり、その後新しい実験生物学のデザインに関わられた研究者です。分野を超えたアイデアがどんどん生まれ、常に挑戦的な研究が展開されている環境の中で「人生をかけて研究に取り組み、自分の命以上に価値のある成果を出して、次世代に残したい」と思うようになりました。お二人と出会わなければ、今の私はなかったと断言できます。

研究室の机や棚は素晴らしかったポスドク時代を思い出せるように、Fritz Roth研究室のものと同じデザインになるよう設計した

貴重なアドバイスと議論の場をもらえる助成制度

この挑戦的研究助成のメリットは、3年間にわたって高額な研究資金が確保できることはもちろん、メンタリングで貴重なアドバイスをもらえたり、継続審査で高名な先生方と議論できることだと思います。

おかげさまで、いま、研究はとても順調に進んでいます。技術開発の実験は95%失敗するものですが、その結果の中に新たな発見を見出すことができれば、それは失敗ではありません。実際、私はこの研究で2回、技術面で大きな方針転換をしました。それはメンタリングや継続審査でいただいたアドバイスのお陰でもあります。

そのアドバイスは今回の研究だけではなく、新たな研究テーマにも繋がりました。自分の視野を広げ、夢に近づけてくれたこの助成制度に、深く感謝しています。

すごい先生方と一緒に議論できたことが、大きな刺激にな った」と語る谷内江先生
インタビュー内容と先生の経歴等は2018年6月現在のものです。