所属
明治大学 総合数理学部 現象数理学科

職名
専任准教授

キーワード
自己組織化、集団運動、界面化学

助成期間
平成30年4月—令和3年3月

研究室ホームページ
2008年3月
筑波大学大学院数理物質科学研究科 博士課程

2008年4月
東京農工大学大学院 非常勤研究員

2009年2月
広島大学大学院理学研究科 博士研究員

2009年10月
明治大学先端数理科学インスティテュート 研究員(兼任)

2010年9月
明治大学大学院先端数理科学研究科 特任講師

2014年4月
明治大学総合数理学部 専任講師

2016年4月
明治大学先端数理科学インスティテュート 所員(兼任)

2017年4月
明治大学総合数理学部 専任准教授


無生物のモデル実験系で細胞の仕組みを解明する

もともと学生時代から生物に興味がありましたが、一部の“擬人化”された表現には違和感がありました。例えば「T細胞は病原体を“攻撃するために”追いかける」というような描写です。まるで細胞に知恵や目的意識があるようですよね。こうした説明に納得できなかったのです。たとえ単細胞生物でも、その行動は物理的、化学的に説明できると、私は考えています。
 もしそうであれば、意思も目的も無い無生物系でも、生き物のような振る舞いを再現できるのではないでしょうか。そのような想いから、モデル実験系でどれだけ生物に近づけるのか、挑戦したいと思うようになりました。

従来の生物学に納得できず、異なる分野からの視点で研究している

化学反応を利用した無生物の自己駆動実験

明治大学に赴任した当初は、研究室を立ち上げ、研究環境を整えるための準備期間が必要だったため、できることが限られていました。これは研究者として致命的な状態です。そこで「安価で簡単に取り組める研究」から始めたのが、樟脳を使った自己駆動粒子の研究です。樟脳とは、クスノキの精油の主成分であり、防虫剤に使用されているものです。

例えば、樟脳の粒をプラスティック板に付けた「樟脳船」を複数用意して、1本の円環水路に浮かべると、一定の間隔を保って水面を動きます。ところが、樟脳船の数が一定以上に増えると、車の渋滞のような現象が現れるのです。このように、単純な系でも集団になると、複雑な挙動を示すことがあります。

生物学においては、動物実験であるインビボ(in vivo)実験、組織の断片や細胞レベルで実験するインビトロ(in vitro)実験などがあり、個々の階層において多くの先行研究があります。しかし、実際の生体は階層として独立しておらず、相互に影響しながらひとつの個体として機能しています。

こうした階層性を持つ系をまとめて取り扱う研究こそ、生命現象を本質的に解明するための重要な課題なのです。

今回の助成研究では、代謝を模した化学振動反応であるBelousov-Zhabotinsky(BZ)反応を、自発的に運動する水滴の中に閉じ込めました。これにより、細胞のように内部の化学状態に依存して運動の様子が変わるようなモデル実験系の確立を目指しています。

無生物のモデル実験系を確立させることができれば、将来的には、自律性の高いソフトロボティクスへの発展が可能になるのではないでしょうか。生体内、海底、地中、他の惑星など、人が直接操作できない環境は多くあります。そのような環境下で、自律的に判断し、環境に応答することができる化学システムの確立へとつながるものと期待しています。

BZ反応を導入した単体の振る舞いと、集団で形成される巨視的なシステムで形成される階層システムのモデル実験系を無生物で構築する