所属

東京工業大学物質理工学院 応用化学系


職名
助教

キーワード
プラズモニクス 振動分光 走査型プローブ顕微鏡

助成期間
平成29年4月─平成32年3月

研究室ホームページ
2007年 3月
大阪大学大学院工学研究科 応用物理学専攻(博士後期課程)修了

同年 4月
科学技術振興機構(CREST)特任研究員

2011年 9月

東京工業大学 助教



ナノ領域を観測する技術で、解明されていない物性を明らかにしたい

小さいものを観察するときは、顕微鏡を使います。レンズで確認できるのは、髪の毛の100分の1程度(200〜300ナノメートル)の領域が限界ですが、分光法という手法を用いれば、さらに小さなナノの世界、すなわち分子レベルの領域まで認識できるようになります。光を物質に照射したとき、物質はその光を吸収したり、透過したり、反射したりします。そのスペクトルを解析することで、物質が持つ固有の性質を知ることができるのです。

物理が専門で、実は生物分野は苦手と語る矢野先生

今回、挑戦的研究助成に応募した研究も、この分光法を応用しています。

私がこの研究を始めたきっかけは、東京工業大学に着任した7年前に遡ります。物理の世界のみで研究をしていた私にとって、応用化学系という学問分野が扱う物質は、それまで見たことがない新しいものでした。そして、そうした物質の性質を解析する研究に携わることになり「ナノ分光計測技術を応用すれば、この分野でまだ解明されていないことがわかるかもしれない」と考えたのです。

階層縦断的解析により、タンパク質の構造ダイナミクスの全容解明に挑む

タンパク質は、一次構造から四次構造までの4つの階層構造で成り立っています。一次構造とはアミノ酸配列であり、二次構造はタンパク質の一部にある規則構造、三次構造は二次構造により構築された立体構造、四次構造は複数のタンパク質分子の複合体です。

わかりにくければ、森をイメージしてみてください。森(四次構造)はいくつもの木(三次構造)から構成されており、木には複数の枝(二次構造)があり、その枝の一本一本には無数の葉(一次構造)が付いています。

そして、木と葉では自然界における機能が異なるように、各階層のタンパク質はそれぞれが異なる性質を持ち、つねに微細な揺らぎによって構造を変化させることで、その機能を発揮しています。

タンパク質の構造ダイナミクス(相互力学関係)に関する研究は、階層別に論じられているものがほとんどですが、私は「各階層におけるダイナミクスは、他の階層にも影響を与えているのではないか」と考えました。

それを確かめるには、たとえば森全体を観察しながら、木や枝、葉の一枚一枚を同時に観測するように、単一タンパク質の各階層のダイナミクスを包括的かつ緻密に、極めて小さな時間単位(ナノセカンド)でリアルタイムに認識する必要があります。

各階層のダイナミクスには相関関係があるのか否か。あるとすればどのような影響をもたらしているのか。

それらを解明することは、単一のタンパク質がもつ機能と発現のメカニズムを明らかにすることであり、さらに、その機能を抑制する方法の開発にも繋がるため、さまざまな分野での応用が期待できます。

階層横断的な解析により、タンパク質のダイナミクスの全貌が明らかになる