所属

慶応義塾大学薬学部 代謝生理化学講座


職名
助教

キーワード
生化学 脂質代謝 メタボローム

助成期間
平成29年度 ~ 平成31年度

研究室ホームページ
2012年
北海道大学薬学部薬学科卒業、薬剤師免許取得

2016年
北海道大学大学院生命科学院臨床薬学専攻(博士課程)修了

同年4月

理化学研究所統合生命医科学研究センター(IMS)のメタボローム研究チーム基礎科学特別研究員、8月に慶應義塾大学薬学部代謝生理化学講座助教に着任



“生物の体内で起こっている化学反応”を解明したい

「生物の中で起こっていることは、すべて化学反応である」。

高校生のときに聞いたこの言葉に強い衝撃を受け、私は生化学の研究者になりました。

現在は生体内の化学反応の中でも特に脂質分子の代謝に着目し、さまざまな皮膚疾患発症のメカニズムを明らかにするための研究を行っています。体の中でどのような化学反応が起こり、そこにどのような意義があるのか、それを知るための基礎研究がメインですが、理学部ではなく薬学部に入ったのは、薬や医療にも興味があったことと、基礎研究によって発見されたものが、いつか新しい医療や創薬の実現に繋がってほしい──そんな願いもあるためです。

体の中で起こっている化学反応を知るため、生化学の道へ

皮膚疾患の発症メカニズムを脂質代謝バランスから解明する

「脂質」と聞くと、多くの人が皮下脂肪や血中コレステロールなどを思い浮かべるため、体にとって悪いものというイメージがあるかもしれません。しかし、体の中にはさまざまな種類の脂質が存在しており、そのバランスを維持したり、時にはあえてバランスを崩したりして、健康を維持しています。

もちろん、皮膚にも多種多様な脂質が存在しています。例えば化粧品の説明で「肌のバリアを守るセラミド」という言葉を聞いたことはありませんか? セラミドは脂質の一種であり、高い疎水性で肌を外部環境から守る働きがあること、皮膚炎や角化症といった皮膚疾患をもつ患者さんの皮膚ではセラミドの代謝異常が引き起こされていることが分かっています。

ただし、必ずしも「皮膚の異常=セラミド代謝の異常」とは言えません。なぜなら、セラミド以外の脂質の中にも、皮膚の健康維持に重要なものが数多く存在するためです。皮膚疾患の発症メカニズムを正しく理解するためには、さまざまな脂質を包括的に捉えることが必要なのです。

皮膚恒常性の制御に関わる可能性がある脂質代謝系をあぶり出す研究

疾患は発症に至る前、見た目には健康に見える皮膚の中ですでに始まっています。そこで私は、疾患発症前から発症後までの脂質バランスの変化を継時的かつ包括的に解析する研究(リピドミクス)によって、疾患の引き金となる真の原因分子の解明を目指すことにしました。検出する脂質を特定しないノンターゲット解析を行うことにより、皮膚の恒常性制御に関わる新たな脂質代謝系の発見も期待できます。
さらに皮膚疾患が発症するメカニズムを解明するには、リピドミクスによって発見した脂質代謝バランスの変化が、なぜ・どのように引き起こされたのかも同時に突き止めなければなりません。そのため、皮膚疾患発症の過程における遺伝子情報の変化まで包括的に解析する研究(トランスクリプトミクス)を組み合わせた、マルチオミクス解析が不可欠なのです。

リピドミクスによって検出される脂質分子は数千という膨大な数が予想され、その中から代謝異常を起こしているものを抽出した上で、それがどんな構造を持つ脂質であるかを特定する必要があります。また、異なる階層のオミクス解析を統合して代謝異常の原因を突き止め、その上で皮膚疾患の原因を探らなければならない。コスト・労力・技術のすべてにおいて非常にチャレンジングな研究であり、私自身、うまくいくかどうか不安がありました。

コスト・労力・技術のすべてにおいてチャレンジングな研究