「皮膚疾患の発症に関わる脂質代謝系のマルチオミクス解析」

キッカケは「挑戦的」研究助成のネーミングに惹かれたこと

挑戦的研究助成は「これから挑戦する自分」にピッタリの制度だった

そんなときに出会ったのが、この挑戦的研究助成です。まず「挑戦的」というネーミングに強く惹かれました。自分のこれからの研究は、まさに自分にとって「挑戦」であると考えていたためです。そして若手研究者を応援する新しい助成制度であること、初年度で前例がないことから「ここなら、自分がやりたいことを受け入れてくれるかもしれない」という期待が沸き、申請書を送りました。

幸いにも採択していただき、この1年で研究が大きく進展しました。

まず、研究費に関する不安が解消されました。とくにこの研究室は私の着任とほぼ同時に開設された新しい研究室であったため、必要な設備を揃え、試薬を購入するなど、研究環境を整えるところから始めなければなりませんでしたが、助成を受けられたことで、早期に完了させることができました。それだけではなく、先を見据えて「必要なもの」を事前に準備する余裕も得ました。

はじめの実験をクリアし、そのデータを元に次の研究段階に入るときには、必要なものが全て揃っている。あらゆる可能性を考慮し、次段階の実験環境を前もって整備することができる。そんな恵まれた環境のなかで研究を進めていくことができるとは、想像もしていませんでした。

異なる専門分野からの刺激的なアドバイス

助成を受けることで得た恩恵は、研究費だけではありません。

書類審査に合格し、2次審査の面接を受けたとき、審査員の先生から「マウスで出た結果をヒトに応用するためには、どうするのか」という質問をいただきました。

この研究では、実験用のマウスを使っています。たとえばアトピー性皮膚炎に関わる脂質代謝を調べる際には、アトピー性皮膚炎を自然発症するマウスを使って、発症するまでの間に何度も実験と分析を繰り返します。これは当然、実際の患者さんに適用できるような実験ではないため、ヒトへの応用に関してはその時点では模索中であり、的確な解決法を明示できませんでした。

しかし「マウスとヒトという異なる種の階層を越えるためのストラテジーは常に考え続けなければならない、後回しにしてはいけない」と再認識させられ、人の皮膚が新陳代謝を繰り返す培養細胞レベルの実験系を構築して、研究の新たな重要課題として取り組み始めました。これも、助成金をいただいたからこそできたことの一つです。

また、私自身は脂質解析を専門にしていますが、遺伝子解析やタンパク質解析を専門としておられる先生方より、それぞれの領域における分析技術の観点から、本研究の問題点を指摘していただき、さらに自分ではまったく考えつかない方向性からの解決策までご助言をいただきました。

2年目に入る直前にも、継続審査として面接がありました。1年間の研究成果に対する評価ということで、たいへん緊張しましたが、そのときも鋭い質問だけでなく、的確なアドバイスも数多くいただき、この研究をより良いものにしていくためのディスカッションの場をいただいたという、とてもありがたい気持ちになりました。

若手研究者は、ためらわず応募すべし

「研究助成をもらうには、その分野における実績がなければ難しい。だからまずはコツコツがんばっていくしかない」。多くの若手研究者は、そう考えていると思います。

しかし、この挑戦的研究助成は、この分野でほとんど実績がない私の研究を採択してくれました。これまでやってきた研究ではなく、これから挑戦したい研究を純粋に評価していただいた結果であると思います。コスト面の援助だけではなく、今まで自分がもらったアドバイスとはまったく異なる角度からの刺激的な指摘や助言によって、研究者としても成長できた気がします。

とくに1年目の秋に実施してもらった期中のメンタリングは、私にとってひじょうに貴重な時間でした。他専門分野の先生方からの斬新なアドバイスを取り入れて研究を進めていく中で、経験豊富なメンターの先生からいただけるご指摘やアドバイスは、研究を続けていく上で大きな指針になりました。もし2年目もメンタリングがあるのなら、今から楽しみでなりません。

このような機会は、なかなか得られるものではありません。実績がなくても「挑戦したい」という気持ちがあるなら、ためらわずに応募することをお勧めします。

斬新なアドバイスがもらえる貴重な助成制度、実績がなくても挑戦してほしい
インタビュー内容と先生の経歴等は2018年3月現在のものです。