研究では、無線通信システムへの本格的な適用に向けて、直交周波数分割多重(OFDM)を変調方式として採用しました。OFDMは無線通信で広く用いられている変調方式で、通信環境の変動の影響を受けにくいのです。
1年目には、OFDM方式において、どの程度多値に信号を変調すれば量子雑音による秘匿効果が十分に得られるかを理論解析と数値計算で検証し、暗号化システムの設計を行いました。この知見をもとに、PSK方式(位相変調方式)とQAM方式(直交振幅変調方式)で実験を行い、いずれにおいてもIF(電波帯中間周波数)帯での暗号化信号の発生と、共有鍵による復号に成功しています。
2年目には、IoT システムへの導入を見据え、従来実験で用いてきた半導体レーザと光強度変調器の代わりに、より小型で低コストな直接変調半導体レーザで光波の発生と、OFDM信号の暗号化を行いました。受信側の信号処理を改善した結果、前年の実験よりも高い信号品質での復号を実現できています。
ここまでの結果をもとに、3年目には60GHz帯のミリ波で、物理レイヤ暗号化したOFDM 信号の通信実験を行い、実験室内での送受信に成功しました。
無線という新しい分野に挑戦したこともあり、様々な苦労がありましたが、ほぼ計画通りに研究を進めて、想定していた通りの結果を得ることができました。
また、様々な企業・研究機関が、無線通信における物理レイヤ暗号化に興味をもちはじめてくれていると感じています。私はこれまで物理レイヤ暗号化を大容量光ファイバ通信に応用する研究を進めてきましたが、反響の大きさなどを考えるに、電波帯の無線通信への応用も非常に有望だとの感触を得ています。実用化に向けて今後の展開を模索しているところです。
セコム科学技術振興財団の研究助成については、数年前に同僚の先生から教えていただき、関心を持っていました。そしてこのたび無線通信と光ファイバ通信の橋渡しをするという新しい試みにチャレンジするにあたり、挑戦的研究助成の主旨に適うと考えて、申請を決意した次第です。
3年間にわたり手厚く支援していただいたことで、本研究に必要な機材を揃えるとともに、今後継続して無線通信や、電波帯の研究を進めていくための基盤を構築できました。たいへんありがたく感じています。
また、メンタリング担当の杉山将先生も、親切に対応してくださり、深く感謝しています。メンタリングはあと1回残っており、どのようなことを相談しようかといろいろ考えて楽しみにしているところです。