「利用者の生体情報を用いて指紋認証を拡張するシステムの研究」

拡張したバイオメトリクス認証を生活の中へ

今後の展望としては、信号処理の精度を高めることと、心拍数以外の生体情報,例えば血中酸素濃度やストレスの推定ができるようすることです。また、より生活に密着した分野に進出したいと考えています。現在はスマートフォン上でシステムを構築していますが、たとえば会社のエントランスのドアを開ける際など、人が必ず通行する動線に私たちのシステムを実装することができれば、利用者の活動を阻害することなく追加の生体情報を取得することが可能となります。バイオメトリクス認証を、すでに日常的に利用されている空間に適合する方向性で研究を進めていくことで、より利便性の高いセキュリティ技術の実現へ繋げたいと考えています。

ユーザーインターフェースに「正解」はない

現在私の研究室に所属するメンバーは21人おり、うち10名が外国人です。中国、アメリカ、カナダ、ペルーなど、国境を越えて在籍しています。ミーティングをまとめるのは骨が折れますが、様々な立場を通して出てくるユニークかつ豊富なアイディアは、良質な研究を生み出します。例えば、グラスに入ったお酒に装置を入れると、赤外線の吸収度合いからアルコール度数を測定する装置を構築しましたし、歯垢を検知する電動歯ブラシも研究を通して構築しました。ブラシの先端に紫外線の光源とカメラがついており、これによって歯垢の量を検知できるようになっています。歯についている歯垢が多いと自動的にブラシが強く回転し、歯垢が少なくなると回転が弱くなります。これらのプロジェクトはそれぞれ違う問題を扱っていますが、共通しているのは「ユーザー目線で技術の新しいアプリケーションを実現している」ということです。ユーザーインターフェースの分野では、必ずしもひとつデザインや設計が正解という訳ではありません。その点は研究を遂行するにあたって大変苦労するところではありますが、私自身も常に新しいことに触れることができ、とても楽しく仕事をさせていただいております。

歯磨きをしていても、きちんと歯磨きできたかどうか自分ではわかりにくい。そこで、客観的に歯垢が落ちたかを計測できる歯ブラシを開発歯磨きをしていても、きちんと歯磨きできたかどうか自分ではわかりにくい。そこで、客観的に歯垢が落ちたかを計測できる歯ブラシを開発

大学は成果主義だけではなく、人を育てる場

私は学生さんを指導する時、「やり方がわかっていれば、それは研究ではない。」と指導しています。私の研究室に所属する学生さんは、研究者に限らず非常に多様なキャリアパスを選択しています。そのような人たちも含めて、将来「しんどいながらも研究をやってよかった」と思ってもらえるような経験を積んでもらいたい、と常に思っています。大学は研究機関であると同時に教育機関でもあるので、研究成果を出すことも重要ですが、人を育て、未来を創り出す力を持つ人材を世に送り出していくことも重要な責務だと私は考えています。大学での研究は学生さんにとって、「やってみないとどうなるかわからない」プロジェクトに、リスクやコストをあまり気にせずに挑戦できる貴重な機会だと思っています。大学教員として、そのような研究環境を提供し続けられるように頑張っていきたいと思います。

「やり方がわかっていれば、それは研究ではない。」というモットーで常に新しいことにチャレンジを「やり方がわかっていれば、それは研究ではない。」というモットーで常に新しいことにチャレンジを

他分野との複合研究でも幅広く助成してくれる挑戦的研究助成

本研究は先ほども述べました通り、セキュリティ技術そのものを追究するものではなかったので、当初の申請の際に採択されるものかどうか不安でした。またや2年目への継続面接の際にも、研究の方向性に関して少し見直しが必要な状況になりました。しかし、私の申請を採択していただけただけでなく、「当初の計画に固執せずに研究を進めてください」という趣旨のお言葉をいただけたことで、非常に柔軟に研究をさせていただいています。

セコム科学技術振興財団は、セキュリティの中核分野に主軸を置いているイメージがあるかもしれませんが、そこを踏まえた上で、他分野に踏み込んでいる研究提案を幅広く助成してくれる財団だと思います。これから助成申請を検討されている方は、既存のセキュリティ研究の領域にとらわれることなく、積極的に応募されてはいかがでしょうか。

セコムのホームセキュリティ、IoT分野とも、積極的に共同研究を進めていきたいセコムのホームセキュリティ、IoT分野とも、積極的に共同研究を進めていきたい