所属
東京大学 大学院 工学系研究科 電気系工学専攻

職名
准教授

キーワード
ヒューマン・コンピュータ・インタラクション ユビキタスコンピューティング

助成期間
平成30年4月─令和3年3月

研究室ホームページ
2005年3月

東京大学大学院新領域創成学科研究科 基盤情報学専攻 修士課程修了


2011年11月

トロント大学コンピュータサイエンス学部 博士課程終了


同年同月

Microsoft Research Asia, HCI group 勤務


2014年8月

東京大学大学院工学系研究科 電気系工学専攻 准教授



ユーザー視点に立った扱いやすいアプリケーションを作成

私は大学生の時、電子工学を学ぶ傍ら、今でいうところのSNSに近いオンラインサービスを大学生向けに提供するベンチャー企業で働いていました。そこでのシステム開発を通して、インタフェースの少しの工夫で使用感が大きく変わるということを実感し、「技術だけでなく、デザインや使い勝手をよくする研究をしたい」という思いが強く芽生えました。その後、ユーザーの視点からアプリケーションやサービスを構築する研究を、カナダの大学院や中国で研究を進めてきました。

Microsoft Research Asiaでは、多国籍の研究者達が在籍するチームに所属し、プレゼンテーション活動を幅広く支援するシステムの開発に従事したMicrosoft Research Asiaでは、多国籍の研究者達が在籍するチームに所属し、プレゼンテーション活動を幅広く支援するシステムの開発に従事した

指紋認証と同時に心拍の情報を取得する

今回助成いただいている研究は、指紋認証と同時に心拍の情報を取得するシステムです。私達が頻繁に使用するスマートフォンの中には、ロック解除などのために指紋認証システムが採用されているものがあります。こうした指紋などの生体情報を用いたセキュリティを「バイオメトリクス認証」と言います。暗証番号を記憶する必要がなく、本人の生体情報そのものが“鍵”となっているため便利です。例えば、一人の人間が、1日でスマートフォンのロック解除を指紋認証で何回行っているか、ご存知でしょうか。とある調査によると、平均80回と言われています。若い人ならもっと回数が多いでしょう。

ですが既存のバイオメトリクス認証システムは、認証するためだけに利用者の生体情報をセンシングしています。バイオメトリクス認証が普及した現在では、先ほど申し上げたように一日中絶えず生体情報を記録する機会が存在します。しかしながら、それが認証やロック解除のためだけに使用されているのが現状です。私たちは、バイオメトリクス認証を生体情報を記録する新しい機会と捉え、日常生活において健康データを取得する新しい方法となりえると考え、本研究を行ってきました。

スマートフォンにおける指紋認証でのロック解除を、生体情報を記録する新しい機会と捉え、日常生活において健康データを取得する新しい方法となりえると考えたことが、本研究につながったスマートフォンにおける指紋認証でのロック解除を、生体情報を記録する新しい機会と捉え、日常生活において健康データを取得する新しい方法となりえると考えたことが、本研究につながった

セキュリティのモチベーションを持続することが、安全安心に繋がる 

人間はルーズな生き物ですから、単にセキュリティ保持のためだけではロックをし続けるモチベーションが保てず、セキュリティシステムを簡略化、もしくは使用しなくなってしまう可能性があります。いくらセキュリティシステムが万全でも、ユーザーに使用してもらわなければ、意味がありません。

バイオメトリクス認証を単なるセキュリティの道具として使用するのではなく、他の目的と重ね合わせることで、使用者のセキュリティに対するモチベーションを持続させる──ユーザブルセキュリティ研究のひとつとして位置づけ、その例としてAuth ’n’ Scanというシステムを構築しました。

Auth ’n’ Scanは、スマートフォンの指紋認証センサーの周囲に光学センサーを4つ配置し、指紋認証センサー上に置かれた指から、心拍の情報を計測するものです。指に光を照射し、その反射を計測することで血流や血管の膨張具合を測定することができます。指の置き方や大きさに関わらず心拍の情報が計測できるような光学センサーの配置と信号処理手法を私たちは考案しました。

私たちが行った実験では、およそ5秒あれば精度よく心拍数を測定できることがわかりました。5秒というのは少し長く感じられるかもしれませんが、例えば「電車やエレベーターの待ち時間など、急いでいない時だけ心拍数を測定する」というインタフェースデザインも実現できるため、利用者に合わせた使い分けが可能となっています。

構築したハードウェアAuth ’n’ Scan(左)と測定結果。左から10秒、5秒、3秒の測定時間の場合の測定精度を表している構築したハードウェアAuth ’n’ Scan(左)と測定結果。左から10秒、5秒、3秒の測定時間の場合の測定精度を表している