所属
京都大学大学院情報学研究科システム科学専攻

職名
助教

キーワード
ウェアラブル 心拍 スマートフォン てんかん学

助成期間
平成29年4月─平成32年3月

研究室ホームページ
2009年3月

京都大学大学院 工学研究科 化学工学専攻(博士後期課程)修了


同年 11月

豪カーティン大学 客員研究員


2010年4月

NTTコミュニケーション科学基礎研究所


2012年7月

京都大学大学院情報学研究科システム科学専攻 助教



てんかん患者に対する誤った偏見

2012年、てんかん患者の運転する車が歩道に乗り上げ、運転手を含む8人が死亡する事故があり、てんかんと自動車運転との関係が議論となりました。これにより、てんかん患者の運転免許の取得の条件が以前に比べて厳しくなりました。しかし、実際には、てんかん患者による事故の実数は意外に少なく、居眠り運転、飲酒運転、高齢者や若者の無謀運転による事故数のほうが大きく上回っています。てんかん患者の交通社会において特別危険な存在かというと、必ずしもそうではなく、われわれはてんかん患者に対して、誤った偏見をもってしまっているのです。

てんかん患者は偏見の目に晒されていることを説明する藤原先生

患者は100万人、専門医は400人

そもそもてんかんとは、どのような病気なのでしょうか。

てんかんは、脳の神経細胞で突然発生する激しい電気的な興奮により繰り返される発作のことをいいます。主な症状はけいれんや意識障害ですが,発作は極めて多彩で、脳のどの部分からてんかん波が放電されるかで、発作の種類が異なります。

てんかん患者は人口の約1%、約100万人いると言われていますが、専門医は400人程度しかおりません。しかもほとんどが都会に集中しているので、地方の患者は非専門医による診療を受けているのが現状です。

また、脳波の異常による病気であるため、通常の検査では脳波計を頭に取り付けて状態を測定します。ですが、異常を検知するために、ずっと装着し続けて日常生活をおくることは不可能です。脳波計をつけた状態で、身体を動かしたり、まばたきをするだけでも波形が乱れて測定ができなくなってしまいます。

脳のてんかん波は、脳だけでなく心臓からでも検知できる

てんかん発作予知アルゴリズムをスマホアプリに実装

そこで私は、てんかん発作を発作起始前に予知するアルゴリズムを開発することに成功しました。脳波ではなく、心臓の心拍数の変動(これをHRV:Heart Rate Variabilityと言います)を測定するだけです。正確に心電図がとれれば、てんかんの異常を事前に検知することができるのです。脳波計のように多少体を動かしたくらいでは測定ができなくなることはありません。

具体的にいうと、Bluetoothを介してスマートフォンに心拍データを送信できるウェアラブルセンサ(シャツに電極をとりつけ、心電図をとる)を共同開発し、発作予知アルゴリズムをスマートフォンアプリとして実装しました。発作を予知すると、スマートフォンからアラームを発報し、患者に知らせます。患者は10秒もあれば、運転中でも道路脇に車を停車することができますから、事故は起こらなくなります。

このシステムの活用により予知精度95%以上の発作予知性能を目指しています。実現すれば、患者にとっては、事故による受傷を防止できたり、就労やレクリエーション活動の社会参加の機会が増すため、心理社会面のQOLが大幅に向上するはずです。また、患者をサポートする家族や周囲の方々も大きな安心が得られます。

患者の家族は100%てんかん発作予知を希望している