「ウェアラブルセンシングと人工知能の融合によるクラウドてんかん発作診療支援システムの開発」

患者はTシャツを着るだけでよいシステム

医療データの解析を始めて、5、6年が経ちます。学生の頃からデータ解析が専門でしたが、研究を開始した当初は、医療分野での活用をうまく進めることができませんでした。医療分野の専門知識が圧倒的に不足していたことが、その原因です。

また、本研究では、患者1人分の心拍変動のデータを入手するだけでなく、できるだけたくさんの患者のHRVデータを得る必要があります。それを人工知能に解析させ、てんかん発作の予知精度を上げるアルゴリズムを作らねばならないからです。そのため、データを提供してくれる医療関係者の存在が不可欠でした。

データ解析にかけた時間は1年間でしたが、データの収集になんと3年以上かかりました。私達のようなデータ解析専門の研究者は、データの解析精度の向上のみに注力すればいい場合がほとんどです。ですが、本研究においては、実際にてんかん発作に苦しむ患者に会う機会を得たり、データを開示してくれる医療関係者のサポートを仰ぐという点でも、非常に苦労しました。ただ、現場に出ることによって患者側からの直接的な要望を知ることができ、その結果、将来的には「患者はシャツを着るだけでよい」という実用性の高いシステムに至ることができました。

医療技術や専門用語について、基礎から丁寧に勉強する必要があった

同じシステムを活用し、認知症改善にチャレンジ

今回セコム財団の挑戦的研究助成に採択していただいたことによって、数年にわたる高額な助成金をいただき、遠くの医療施設を訪問する旅費をまかなえたり、共同研究者と本格的な研究体制を組むことができ、効率的に研究活動を進められるようになりました。これは非常に嬉しかったですね。今後は、他の症状、たとえば認知症改善に向けた研究などにもチャレンジしていく予定です。

異なる分野を専門にする方々と一緒に研究をすることで、新たな着想が生まれると、自分自身の研究によい影響を与えます。こうした研究が今後も増えていき、日本の若手研究者の活動が活発になっていくことを願っています。セコム財団の挑戦的研究助成は、多少のリスクがあろうと、熱意のある研究を採用してもらいやすいと感じています。「我こそは……」という若手研究者の方は、申請前から勝手に諦めず、積極的に応募されることを強くおすすめします。

ビッグデータ研究で欧米諸国に勝てなくても、発生が稀で、
倫理的な問題などにより入手が困難な“スモールデータ研究”なら国内研究が光る余地は、まだある
インタビュー内容と先生の経歴等は2018年6月現在のものです。