「スマートグリッドを利活用する匿名利用者認証プロトコル」

匿名性を保持したまま、認証を可能にする

トークン依存型リンク制御可能グループ署名は「トークン」と「グループ署名」という既存の技術を融合させた、新しいセキュリティ技術です。

グループ署名とは「特定のグループに所属する人物が作成したデータ」であることを証明する印鑑のようなものであり、偽造不可能性を実現します。トークンは、暗号の一つの要素だと思ってください。仮に、2カ所の充電サービスに、それぞれデジタル署名を付与するトークンXとYを設定します。

A電力会社と契約しているユーザが、外出先のX充電サービスを利用した場合、利用履歴にはグループ署名(A,X)がつきます。同じ場所で2回充電すれば、同じグループ署名(A,X)が2つ作られるため、同一人物であるとわかりますが、「A電力会社の契約者」とわかっても「誰か」までは、わかりません。

また、同じユーザが別の充電サービスYを利用したときは、利用履歴に(A,Y)がつきます。万が一、その利用履歴がXの管理者に漏れたとしても、(A,X)と(A,Y)が同一人物であるのか、違う人物なのかは、判別がつきません。これによってリンク不可能性が実現しました。

トークン依存型リンク制御可能グループ署名の機能

当然、グループ管理者であるA電力会社はユーザを特定し、使用電気量に応じた金額を請求することができます。つまり否認不可能性を実現します。

以上から、トークン依存型リンク制御可能グループ署名は、ユーザの匿名性を保ったまま利用者の認証を可能にする技術として確立したのです。
そして2年目からは、この技術の安全性が保たれていることを数学的に証明するための研究を進めています。

1年かけて完成させたセキュリティシステムは、2年目に安全性の証明、3年目にシミュレーター上での実装実験を行う予定

可能性を引き出してくれる助成制度

この挑戦的研究助成制度を見つけたとき、300万円という金額の大きさはもちろん、3年間じっくり研究できることに魅力を感じ、迷わず応募しました。

また、継続審査では「スマートグリッド以外にも応用できるから、一般性の強い課題にも取り組んで、大きい成果を狙ってみては?」と言っていただき、感動しました。私はこれまで複数の研究助成を受けてきましたが、研究中に新しい課題を発見したとき、研究計画に縛られず柔軟に対応してくれる制度は貴重です。この柔軟性も挑戦的研究助成制度の大きな魅力の一つです。

大きなテーマに取り組みたい、研究の可能性を引き出してほしいという若手研究者は、ぜひ応募してください。

「若手研究者はトライ・アンド・エラーを繰り返しながら、新たな可能性を広げていくべきです」と語る矢内先生(中央)と学生たち
インタビュー内容と先生の経歴等は2018年6月現在のものです。