「長期経年低線量CT画像による肺気腫の進展関連遺伝子の同定とCT画像診断との統合化」

様々な病気の早期発見に繋がる土台を作ることができた

今後の目標は、1回のCT画像撮影でCOPDが進展する人か否かを早期に、かつ高確度に判別することです。例えば「5年後には病気が進行する可能性があります」といった情報を提供できることが理想です。

さらに、この解析方法のフレームワークが確立されたことも貴重な成果の1つです。肺気腫に限らず、様々な病気の早期発見に繋がる可能性が見いだされつつあります。貴重なデータベースを持つ研究機関に私たちが直接アプローチし、画像の深層学習、統合解析を行うことで、病気の早期発見に繋げることができるのではないか、という期待が出てきました。この3年間の助成で、今後の研究の土台が構築できたと思っています。

COPD関連のSNPを網羅的にタイピングするためには、膨大な費用がかかるため、挑戦的研究助成に採択されて本当に有り難かった

人材育成が課題

医療の臨床現場では、触診や血液検査といった判断材料を用いて、その中から最終的な診断がなされます。世界に視点を広げてみても、多様なデータベースをもとに深層学習等を用い、横断的に研究することで病気の早期発見に繋げる動きが活発化しています。では、世界規模で徐々に集まっているデータをハンドリングして、単一のデータに特化して研究すればいいのかというと、そうではありません。マルチモダリティの情報を統合解析して新しい医学的知見を発見できる人材が、この分野の発展には必要不可欠です。

しかし、そのような人材を育成することは簡単ではありません。そこで、私の所属する徳島大学では、光学/工学をベースとして、医学的な知見とAI・ビックデータの知見を併せ持ち、企業や産業界の研究部門等で活躍するイノベーティブな人材(エンジニア)を育成するための“医光/医工融合プログラム”が新設されました。今後、どのように次世代の研究者を育成していくべきかは、まだまだ課題がありますが、新たな取り組みとして注目されています。

異分野の先生方に、研究に併走する形でアドバイスをいただけた

この挑戦的研究助成への申請は、以前、一般研究助成に採択された河田佳樹先生や仁木登先生からお話を聞き、決意しました。

いただいた助成金は、タイピングにかかる費用の他に、試薬、深層学習関係の機器、データを蓄積するサーバーなどに使用しました。ちなみにタイピングに関しては、私はマイクロピペットの使い方すらわからなかったので、当時、徳島大学人類遺伝学分野の井本逸勢先生、増田清士先生、丹下正一朗先生に1週間ほどつきっきりで、学生たちと一緒に教えてもらいました。

ただ、タイピングには多くの人手が必要ですが、助成期間中はコロナ禍であったため作業できないことが多く、その時間を確保するのにたいへん苦労しました。それも、研究の思い出のひとつです。

先に述べましたが、メンタリングでは1回あたり1時間という長時間を確保していただいたこと、桜田先生が研究の根幹をなす部分について丁寧に、親身にアドバイスをし続けてくださったことが、非常にありがたかったです。違う分野の研究者の方と、併走する形で長期間にわたり付き合っていただける機会など、これまでありませんでした。この後の研究者人生においても、この貴重な経験を生かしていくつもりです。

研究で壁に突き当たったり、突破口が見いだせなくて悩まれている方は、挑戦的研究助成に申請することで、意外なところから道が拓けるかもしれません。私も、そんな皆様を微力ながら応援していきたいと思います。

面接の際「この研究は300万円/年で行う規模の研究ではない」との指摘を受け、絶対に不採択になると落ち込んだため、採択通知を受け取ったときは本当に嬉しかった