「情報の生涯真正性を保証するサイバーフィジカルインプリントのための基盤要素技術研究」

研究者同士の交流から、研究者として進むべき道が拓けた

私の以前の研究は、ただ速さを求めて、既存技術の効率化、高性能化を追求するばかりでした。しかし、セキュリティの世界に入り、大きく変わりました。この世界では、全く異なる視点から新しい脅威となる攻撃が次々と提案され、これに対処するためには、新たな発見やアイデアをもとに、全く新しい機能を開発する必要があるという点です。

既存技術を少しずつ改善していくような、これまでの研究と全くプロセスが異なること、どうすればこの分野で認められるのかが分からなかったことから、研究方針について2年ほど模索しました。やがて、自分の狭い視野だけで考えても答えが出ないとわかり、同じ分野の研究者と積極的に交流し、議論を重ねるようになりました。その中で「セキュリティ分野の研究には、まだまだ多くのフロンティアが残っている」「アイデア次第でさまざまな技術の発見、開発の余地がある」という事実に気づき、進むべき道筋が明確になったのです。

実績がない研究者に率先して助成する、まさに“挑戦的”な助成制度

研究方針が明確になっても、すぐに研究を始められるわけではありません。若手研究者の誰もが陥る「資金調達」という大きな課題に直面しました。実験用の集積回路を1つ試作するだけでも、最低でも100万円以上の経費がかかります。それに付随する各種実験費用などを含めると、かなりの額が必要になります。この分野での実績が皆無であった私では、他の助成制度に申請しても通らず、大いに苦戦していました。

そんな私の状況を知り、助け船を出してくれたのが、研究者仲間であり、すでにセコム科学技術振興財団の助成を受けていた林優一先生です。挑戦的研究助成の存在を教えてくださり「一度トライしてみては」と勧めてくださいました。

面接を経て、申請が通ったときは、本当に嬉しかったです。予算の使い方については、かなり柔軟に認めてくださるため、実験装置の購入や集積回路の製造費といった直接経費だけでなく、研究に関わってくれている学生のバイト代にも使っています。

この助成金がなければ、研究に取り組むことすら難しかったと思います。林先生とセコム財団には、感謝してもしきれないくらいです。

助成金をもとに学生に手伝ってもらって一から構築した実験環境。セコム財団に採択されたことが実績となり、他のファンドでも採択されるようになった

若者は「世界と戦う」ぐらいの気概を持て!

私は「研究に一定の成果が出たら、大きな国際会議で発表する」ことを、研究者である自分の努力義務として定めています。この分野に進むときに「ここで世界と戦う」と決めたからです。

そのため、海外の国際会議に積極的に参加しています。そのような会議に参加すると、世界的な企業や著名な研究者が大勢参加しているセッションで、研究成果を発表できる機会に恵まれることがあります。そうした環境で自分の成果が認められるのは、やはり楽しいですし、モチベーションが高まります。おかげで海外にも多くの研究者ネットワークが構築できました。

目標は、この分野で一番権威のある国際論文誌に、自分の論文がアクセプトされることです。そのためにも残りの助成期間、気を抜くことなく、研究に励んでいきたいと思っています。

セキュリティ分野は階層が深く、やりがいがある。苦戦した時期はあるが、研究者同士、人のつながりを大切にしたことで、未来が拓けた