HOME > 研究者 > 金倫基先生 > 食物アレルギーの抑制に関わる腸内細菌の探索とその創薬応用(第2回)

食物アレルギーの症状の中でも最も危険なアナフィラキシー。この発症を抑えるため、多くの研究者が実験に励んでいます。その中で、金先生は腸内細菌分野を入り口に、糖尿病の治療薬である「α-グルコシダーゼ阻害剤(α-GI)」に着目。実験により、この薬を投与したマウスはアナフィラキシーの症状が抑えられていることを明らかにしていきました。

第2回では、α-GIによるアナフィラキシーの抑制メカニズムについてさらに詳しくお伺いし、その後展開していった研究結果についてもお話しいただきます。

前回はα-GIによる研究結果をお伺いしましたが、この後、金先生が目指していらっしゃる腸内細菌のメカニズムまで研究が展開していくのでしょうか。

そうですね。腸内細菌の代謝物レベルまで明らかにすることが目的ですので、いくつものアプローチによる解析と検証を続けていきました。

まず、免疫学的なアプローチで研究を進めました。アレルギーの抑制には、抗原特異的な免疫応答を司る、獲得免疫系が重要な役割を果たしていることから、獲得免疫系に関わる免疫細胞や、これらによって産生される抗体に着目しました。しかし、α-GIを投与しても、アナフィラキシー症状と深く関連しているTh2細胞の割合や抗原特異的なIgEの濃度は低下しませんでした。

「獲得免疫系がアレルギー抑制には重要だ」と言われていたのに、その通りの結果にならなかったということですね。

そうです。では、α-GIは一体どこに影響しているのか。

そこで考えたのが、獲得免疫系を介してではなく、肥満細胞に直接影響を及ぼすメカニズムがあるのではないか、ということでした。実際に、マウスにOVA抗原を投与し、抗原特異的なIgEが作られた後にα-GIを投与してもアナフィラキシー抑制効果が見られたことから、腸内細菌由来の代謝物が、直接的に肥満細胞の機能を抑制しているのではないか、と予想したのです。

ここで、腸内細菌の登場ですね。

はい。そこで次に、α-GIによるアナフィラキシーの抑制に腸内細菌が関わっているのかを検証するために、マウスに抗菌剤を飲ませ、腸内細菌を除去した状態で同じような実験を行いました。同じような実験を行いました。すると、抗菌剤投与マウスではα-GIによる抑制効果が発揮されなくなりました。また、飼料から多糖類を除去することによってもα-GIによるアナフィラキシー抑制効果はキャンセルされました。

これらのことから、α-GIによるアナフィラキシー抑制効果を発現させるには、「食べ物由来の多糖類」と、「腸内細菌」の両者がセットで必要であることが明らかになりました。

生体実験によって1つひとつ検証を重ねていくことで、メカニズムを明らかにしていく
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