HOME > 研究者 > 斎藤隆泰先生 > 弾性波動論とAIの融合による完全非接触レーザー超音波非破壊検査システムの開発(第2回)

2030年に実現すべき経済社会の姿として内閣府が描く「技術科学イノベーション総合戦略」では、インフラの安全安心の確保、インフラ点検・診断技術の開発が重点的課題に挙げられており、非破壊検査の重要性がますます高まっています。

前回は、非破壊検査が抱える3つの課題解決に資する、レーザーを用いた新たな超音波非破壊検査(UT)システムについてお教えいただきました。今回は対象を金属からコンクリートへとシフトしたご研究について、詳しくお伺いします。

非破壊検査におけるAIの活用は、以前から考えられていたのでしょうか。

非破壊検査にAIを活用するアイデアは、1990年代後半からありました。アメリカの国際会議でもいくつかの論文が発表されましたが、当時は計算機の性能が低く、AIの構築が実現できなかったのです。

近年は情報科学技術の目覚しい発展により、さまざまな領域でAIの活用が進んでいます。しかし、土木分野はデータサイエンスに馴染みがなく、私がこの助成制度に申請した頃は、土木学会でもAIに関する発表場所はほとんどない状態でした。実際、土木系でAI・データサイエンスシンポジウムという学会が近年開催されるようになりましたが、ごく最近のことです。

加えて、私自身にもAIの専門知識が十分ではありませんでした。群馬大学情報学部で機械学習を専門とする加藤毅教授に相談し、共同研究者になっていただくことで、ここまで来ることができたのです。

土木分野におけるAIの応用は、始まったばかりなのですね。

はい。加えて、AIの判断にはその根拠がわからない「ブラックボックス問題」があります。本研究で開発する新しい非破壊検査システムが安全安心なものであるためには、このブラックボックス問題の解消は必須でした。

そこで、まずは「AIが人間と同じ部分に着目して欠陥の有無を認識しているかどうか」、これを追跡する技術を開発しました。

AIの判断を、人間が「間違っている」と認識できるようにする、ということですね。それはどのようなシステムなのでしょうか。

Grad-CAMと呼ばれる方法を用いました。簡単に言えば、AIが着目した部分を赤い色で表現することで、「この現象を追跡した」「その結果、欠陥あり/なしを判断した」と、回答の理由を明示できるようにしたのです。

根拠が間違っていた場合は、より正確に判断できるように調整を行うことで、人間と同じ根拠で欠陥の有無を判断できるように仕上げていきました。

AIが画像中のどの部分を特徴として捉えているのか調べた結果、人間同様、散乱波を追跡して欠陥の有無を判定していることが明らかになった

現在は、コンクリートを対象に研究を進めていると聞きました。

本格研究に移行する際、選考委員からコンクリートへの適用を検討するようご要望をいただきました。コンクリート構造物への新たな超音波非破壊検査(UT)方法の開発は大いに需要があり、社会的にも重要度が高いと感じていたため、良いキッカケであったと感謝しています。

あまり知られていないことですが、世界が抱える廃棄物問題において、建設現場から生じる廃材は、全廃棄物の中でも多くの割合を占めています。点検によってコンクリート構造物の寿命を延ばすことは、廃棄物削減にも繋がるのです。

そこで、本格研究2年目からコンクリート試験体を含めた実験、およびシミュレーションを開始しました。

非破壊検査によって構造物の寿命が延びれば、土地や資源に負担をかけずに都市を維持できる。これはSDGsが掲げる「住み続けられるまちづくり」にも寄与する
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