社会課題解決のためのアントレプレナーシップとそれを支えるチームワークに関する研究
前田 貴洋 先生

琉球大学 人文社会学部 国際法政学科 政策科学講座
准教授

助成期間:令和3年度〜 キーワード:行政組織 地方自治 行政管理 研究室ホームページ

2019年3月首都大学東京大学院社会科学研究科博士後期課程修了、博士(政治学)。首都大学東京大学院法学政治学研究科・法学部法学科助教を経て、2020年10月に琉球大学人文社会学部国際法政学政策科学講座講師に就任。2022年10月に准教授となり、現在に至る。

まず、先生が行政組織におけるチームワークに着目されたきっかけについて教えてください。

行政組織は社会の基盤を成す組織であり、社会課題の解決において中心的な役割を果たします。したがって、ここが前例踏襲に陥り、ルーティン的な活動に終始してしまうと、あらゆる社会的・経済的活動が停滞してしまいます。 

特に、現在は変化が激しい時代であり、地域によって抱える課題や最適なアプローチ法は異なります。既存のトップダウン型のチームで、上や中央から命じられた通りに業務をこなしているだけでは、多様な課題に柔軟に対処できないのです。

つまり、行政組織にもイノベーションが強く求められているのですね。

はい。一般的に、行政組織は民間企業と比べて、イノベーションの実現が遅れる傾向にあります。しかし、新規事業に取り組んで顕著な実績を上げ、社会課題の改善や解決に成功した自治体は存在します。

それを可能にした要因として、本研究では行政組織におけるアントレプレナーシップ(変化の中にチャンスを見出し、イノベーションを用いて事業を興す行動や起業家精神のこと)やそれを支える「アントレプレナリアル・フォロワーシップ」とでも言うべき、チームワークに着目しました。

イノベーションには、アントレプレナーのリーダーシップに加え、
チームワークによる下支え(フォロワーシップ)が必須である

行政組織におけるチームワークについての研究は、これまで行われてこなかったのでしょうか。

残念ながら、日本の行政組織におけるチームワークの実態解明は、極めて不十分な状態にあります。

既存の日本の行政学研究は、学問的にはむしろ政治学に近く、政治家と官僚や公務員の関係性を主な分析対象とする傾向にありました。そのため、チームワークをはじめとする行政組織の管理運営や組織の改善法、職員のモチベーションなどに関する研究は、あまり進んでいないのです。

しかし、急速な環境変化に対応しつつ、効率的かつ安定的な公共サービスを提供して、安全安心な社会を実現するためには、行政組織において高度なチームワークを実現する手法を明らかにしなくてはなりません。

そこで本研究では、既存の行政学が蓄積してきた「チームワーク」を生み出す環境要因に関する研究に加え、心理学や経営学など隣接分野の研究手法や知見を活用し、「行政組織のチームワークの実態」と「イノベーション」の関係を実証的に明らかにすることを目指しました。最終的には、本研究から得られた知見を行政現場にフィードバックし、イノベーションの実現に取り組もうとする職員や自治体に貢献したいと考えています

隣接分野における知見を、行政組織にそのまま適用することは困難なのでしょうか。

行政組織は業務内容が独特であり、一般的な民間企業に比べて法令や条例に拘束される部分が多いと言えます。組織としての特殊性ゆえに、隣接分野や民間企業を対象とした研究から得られた知見や手法が、行政組織には適用できない場合も多々あります。

これに加え、チーム編成の様式も、民間企業とは異なります。特に小規模の自治体の場合、新たにプロジェクトチームを編成すること自体が困難なケースが多く見られます。一般的には、通常業務の延長上で新規事業に取り組むアントレプレナーを、組織内外の関係者数名が支える形でチームがつくられています。

したがって、行政組織におけるチームワークやイノベーションについて研究する際には、そうした特殊性を十分に考慮する必要があります。そのため、行政学を専門とする私が、実証的に研究すべきテーマだと考えました。

行政組織は特殊な性格の強い組織。そのため、本領域の他の研究チームとは、
チームやチームワークの捉え方やアプローチ法が少し異なると自覚している