令和5年11月28日 令和5年度 特定領域研究助成 先端医学分野の研究成果報告会・座談会を開催

令和5年11月28日(火)、東京・千代田区の富士ソフトアキバプラザで、特定領域研究助成 先端医学分野 研究成果報告会・座談会「多階層生命医学プラットフォーム構築のための基盤技術開発」が開催されました。

本行事は2部構成で開催されました。

前半は、特定領域研究助成 先端医学分野 研究成果報告会として、令和2年度に新規採択され、これまで3年間にわたり研究を進めてこられた4件の課題について、研究代表者の先生から成果報告が行われました。

  • 清田 純 先生(理化学研究所)「深層生成モデルを用いたマルチモーダルからの共通特徴量空間の同定」
  • 太田 禎生 先生(東京大学)「細胞間ネットワーク表現型解析法の開発と応用」
  • 平林 祐介 先生(東京大学)「深層学習を用いた細胞内微細構造の超高効率解析法の確立と病態予測・解析への応用」
  • 岸 雄介 先生(東京大学)「多階層エピゲノム情報の同時取得と統合的解析手法の確立による神経発生・老化機構解明」

成果報告をされる先生(左から、清田先生、太田先生、平林先生、岸先生)

後半は、平成28年から始まった、セコム財団における「多階層生命医学」を切り口とした研究助成が累計で30件に達したことを機に、この分野の研究者どうしの交流やこの研究手法のさらなる発展を願って、これまで助成をさせていただいた先生方にも出席のお声がけをし、座談会を行いました。

当日は、オンラインを併用したハイブリッド開催とし、これまでセコム財団で「多階層生命医学」の切り口で助成をさせていただいた先生方、および生命医科学に関する課題で助成をさせていただいた先生方、選考委員の先生方の約30名が参加しました。

前半の研究成果報告会では、各先生の発表のあとには、先端医学分野の領域代表者である慶應義塾大学 桜田一洋先生から、課題のこれからの発展を期待する方向性について温かいコメントがありました。会場やオンライン参加者からもたくさんの質問が出て、活発な議論が展開されました。

後半の座談会では、領域代表者である慶應義塾大学 桜田一洋 先生から、議論の出発点として「多階層生命医学」というテーマを設定した背景や経緯、助成者に「こんなことをやって欲しい」と考えていたことについて説明がありました。

座談会でテーマ設定の概要を説明される、領域代表者の桜田一洋先生

その後、「多階層生命医学」の切り口で集まった約30名の先生方による熱く濃い議論が、約1時間半にわたり展開されました。

熱く濃い議論の様子

座談会で議論された、いくつかのトピックをご紹介します。

  • ・生命科学や疫学でこれまで行われてきた仮説検証型の手法と、実験的生命医科学とAI・機械学習に代表されるデータ科学を融合し、階層をリンクして、そこに新しい生命原理を見出す手法(データ駆動型)があります。仮説検証型の手法からでは、システムがスケール干渉しながら時間発展していく経緯をどうやって理解するのか、という系のダイナミズムが現れてきません。このダイナミズムの問題は、多階層の問題の本質の一部であると考えます。
  • ・仮説検証型とデータ駆動型は、ともに万能ではなく、それぞれ使うべき場面があると思います。そこを知ってうまく組み合わせることが、多階層領域の発展に重要と考えています。AI、機械学習を使ってサイエンスを進めること(これまで出来なかった科学をやること)、このような方向性を持っている人材はまだ多くありません。セコム財団のこの領域から、このような人材が育っていくことを期待します。
  • ・自身の専門は光分野であり、物理学の側面から研究をしています。データ駆動型だけでは研究のストーリーを描き切れません。バイオロジーの視点を持っている人たちと議論することで理解が深まり、次のストーリーを描くことができる、そのような場があるのがセコム財団の特徴だと思います。
  • ・研究者の立場から見たセコム財団の特徴として、いい目利きをしてくれる先生がいて、専門家集団を集めて議論していくことがあると思います。専門家集団が、このような車座で議論ができることが大切と感じました。
  • ・人は何から「生き物」と感じるのか、生物システムと非生物システムを分かつものは何なのか、この答えを探しています。自身は「階層性」を使うこと無しでは答えに到達できないと考えていますが、階層性の何を使えばよいのか迷っています。みなさんの考えを聞かせてほしい。
  • ・自身の専門は生物学ですが、現在の理屈は測れるものでしか見ていません。生物には、まだ測れないものがたくさんあるはずです。それを見つけていくことが生物の理解を深めるのに重要だと考えています。

座談会の最後に、平成28年に「多階層」のテーマを最初に提案されたセコム財団の理事である理化学研究所 谷口 克 先生から、提案の背景と今後の期待についてお話がありましたので、ご紹介します。

  • ・セコム財団へ「多階層」のテーマを提案したとき、当時は要素研究がメインであったため、仮説駆動型でした。それだけでサイエンスを進めるには限界を感じ、生命の、システムとしてのメカニズムを理解する必要があると考えました。今後、新しいAIデータサイエンスと生命科学が結びつく場面が多くなるでしょう。この座談会に参加されたみなさんが、世界で先駆的な役割を果たしてほしいと思います。

報告会と座談会の終了後、会場参加者による懇親会が開催されました。座談会の熱気そのままに至る所から談笑の声が聞こえ、活発な意見交換がされていました。

懇親会で挨拶をされる、先端医学分野の選考員である黒田玲子先生

懇親会の冒頭、先端医学分野の選考員でありセコム財団の理事である中部大学 黒田玲子先生から「セコム財団には、選考員や助成者に優秀な人が集まっています。今日の報告会や座談会の議論を踏まえて、さらに新しい発展が実現する予感がしました」 とのお言葉がありました。

最後に成果報告をされた先生方から、一言ご感想をいただきました。

  • ・今日は、エッジの立った30人くらいの研究者が集まりました。こんなメンバーが揃う場はなかなかありません。5年後10年後に近況報告の場を設けたら、ものすごくポテンシャルが上がると思います。
  • ・今日ここに来るまで、研究の積み重ねがこんなにあって、面白いメンバーが揃っていることに気が付いていませんでした。このようなコミュニティーが作られているのだなと感じました。
  • ・AIをサイエンスとして本当にやっている人はあまりいません。セコム財団が本当にやっている人を集めたことで、今日の議論は自身にいい刺激になりました。
  • ・自身はAIをあまり使っていませんでしたが、今回の助成により領域代表者の先生方のメンタリングを受けて、新しい視点をもらえました。

座談会の熱気そのままに盛り上がっていた懇親会

成果報告をされた先生方にとって、研究期間がコロナ禍と重なり、みなさんが揃う最初で最後の場となりましたが、交流を深めた楽しい会となりました。